イジワル専務の極上な愛し方
◇ ◇ ◇
メイク道具に歯ブラシ、それに下着と着替え……。翌朝、それをバッグに詰めて、会社に向かう。
どう見ても不自然な持ち物で、ビルまで持って行く勇気がない。でも、駅前のロッカーに入れてしまうと、あとが不便だしな……。
そんなことを考えながら電車に乗っていると、翔太さんからメールがきた。
駅に着いたら、ロータリーの端まで来てほしい──。そんな内容だ。
「ロータリー?」
どういう意味か分からないまま、言われたとおりロータリーの端へ向かう。すると、そこには彼の車が停まっていた。
「おはよう、彩奈」
運転席の窓から顔を出した翔太さんは、助手席に目配せをする。
“乗れ”と言っているみたい。人目を気にしつつ、急いで車に乗ると、彼は車を走らせた。
「翔太さん、どうしてここへ? 会社までは、すぐなのに……」
「泊り用の荷物、ここへ置いておけばいいだろう?」
涼しい顔をして言う彼に、私は控えめに聞いてみた。
「まさか、そのために迎えに来てくださったんですか……?」
「そうだよ。今夜、誘ったのは俺だし」
車はあっという間にオフィスビルに着いて、地下駐車場へ入っていった。
「翔太さん……。気遣ってくれて、ありがとうございます。だけど、大丈夫ですか? 誰かに見られたら……」
「え? 別にいいんじゃないか? 彩奈はイヤ?」
「えっ!? い、いいんですか?」
あまりにも当たり前のように言われ、しばらく絶句する。専務とその秘書が付き合っているなんて、周りの印象がよくないんじゃないか。それが心配なのだけれど、彼は首を傾げている。
「いいじゃん。なにか問題ある?」
「あり過ぎだと思うんですけど……」
車を停めた翔太さんは、シートベルトを外し、車を降りていく。私も遅れまいと、あとに続いた。
「うち、社内恋愛は禁止されていないだろう? 社内でも多いよ、オフィスラブってやつ」
薄暗い駐車場で、うっかりすると車止めに足を引っかけそうになる。そんな私に、翔太さんは手を差し出した。本音は、その手に迷わず自分の手を重ねたい。
だけど、それがどうしてもできない。立ち止まった私は、翔太さんを静かに見据えた。
「でも、私と翔太さんは、専務と秘書です。あまり、よい印象を持たれないんじゃないかと思いまして……」
そう言うと、彼は少し冷たい表情になる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺と付き合っていることが知られたら、彩奈には迷惑ってこと?」
「ち、違います! 翔太さんがどう思われるか、それが心配なんです」
慌てて弁解をすると、翔太さんは一転、クスッと笑って目を細めた。
「分かってるよ。ありがとう、心配してくれて。でも、俺はお前と堂々と付き合いたい」