イジワル専務の極上な愛し方
もしかして、翔太さんの気を悪くしちゃったかな。不安を覚えつつ、エレベーターを降りると、大理石の廊下が続いていて、奥に玄関ドアがひとつあった。

「最上階は、俺の部屋だけ。落ち着くだろう?」

廊下を歩くたびに、靴音が響く。翔太さんの部屋しかないこのフロアには、高価そうな花瓶に生花が飾られていた。珍しさに、思わずキョロキョロと見回してしまう。

「はい……。だけど、とても緊張します」

「緊張する?」

カードキーでドアを開けた翔太さんは、怪訝そうな顔をした。そんな彼に、私は小さく頷く。

「だって、翔太さんの部屋だから。なんだか、緊張します」

祐一さんの部屋にだって、数えるくらいしか行ったことがなかったな……。そういえば、あまり私を招待したがらなかったし……。

だから、”恋人の部屋”へ行くことに慣れていない。そんな私は、翔太さんに子供っぽいと映っちゃうかな……と考えたら不安もよぎる。

すると、翔太さんは優しい笑みを浮かべて、私の頬にキスを落とした。

「緊張しなくて大丈夫。二人の時間を、俺は楽しみたい」

「そうですね……。私も、同じ気持ちです」

やっぱり、翔太さんって優しい。ただ、緊張のほぐし方が甘くて、ドキドキと違う緊張もしちゃうけど。そう思ったら、自然と笑みがこぼれていた。

「じゃあ、入って」

「はい、お邪魔します。あ、そういえば夕飯は? 出直すってことですか?」

会社を出るときに、フレンチでいいかと聞かれたことを思い出す。てっきり、最初にお店に行くのかと思っていた。

「ああ、あれは、店に行くってことじゃないよ。俺が作ってあげる」
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