イジワル専務の極上な愛し方
◇ ◇ ◇
「荷物、大丈夫? 忘れ物ない?」
私のマンションから、翔太さんの自宅へ向かう車内でそう声をかけられた。
「大丈夫です……。だけど、本当にいいんですか? 一緒に生活しようって……」
やっぱり、社長に挨拶をしてからのほうがよかったんじゃないかとか、この期に及んで考えてしまう。
今日は、祐一さんと再会するという思わぬ出来事もあったけれど、私の心に彼がいないことはハッキリ分かった。
翔太さんに対して、気まずい思いはあるけれど、私が恋をしているのは翔太さんだけ……。だからこそ、彼との関係を大切に続けたかった。
「何度も、いいと言っているだろ? それとも、やっぱりイヤになった? それなら、そうと言ってくれていい」
「え?」
もしかして、翔太さん怒ってる……? 彼はハンドルを握っているから、横顔しか見られないけれど、笑っていないことはたしか。
なんども意志確認をしたのが、しつこかったのかもしれない……。やっぱり、私って恋愛がヘタだな……。
「イヤなんかじゃ、ないです……」
自分が情けなくて、声も小さくなる。翔太さんの気持ちは、痛いほど分かっているのだから、素直に甘えるべきだったのかもしれない。
落ち込み気味になりながらも、車は翔太さんのマンションへと着いた──。
「どうぞ。今夜からは、気兼ねなく過ごしてもらっていいから」
「はい……。ありがとうございます」
私の荷物を持ってくれた翔太さんは、玄関のドアも開けてくれた。紳士的な振る舞いは、いつもと変わらないけれど、口調は冷たい。
それに、私と目を合わせてくれない……。靴を脱ぎながら、泣きそうになる自分の気持ちを抑えていた。