イジワル専務の極上な愛し方
「そんなに、専務の話が出ているの?」

麗香は、営業ウーマンで、日ごろは外回りが多い。その彼女が、こうやって聞いてくるということは、かなり話題になっているということなんじゃないの……?

なんだか、とても複雑。

「うん。副社長に恋人ができちゃったから、次は専務……って思ってる女子社員が多いみたい。それで、私も気になっちゃって。でも、深い意味は全然ないのよ?」

「そうなんだ。だけど、私から話せることは、なにもないかな……」

事実をまだ話せないもどかしさや、申し訳なさを感じるとともに、翔太さんが社内でそんなに人気があったことを痛感してヤキモチを妬く自分もいる。

もちろん、モテる人だとは知っていたけれど……。

「そうだよね、変なことを聞いてごめん。お互い、仕事を頑張ろうね」

「うん、頑張ろう」

麗香は、本当にただの興味本位だろうとは分かる。彼女のタイプは、翔太さんとは全然違うから。でも、他の女子社員は、翔太さんを狙っていたりするんだ……。

その後ランチを終えた私たちは、店の前で別れた。麗香は、アポで得意先に直接向かうらしい。私も、翔太さんが戻ってくる前に帰らなければと、歩調を速めたとき、ふいに背後から声をかけられた。

「彩奈」

振り向くと、祐一さんが立っている。ニッと笑みを浮かべて、大股で私の隣に並んだ。

「祐一さん……」

たしか、今日の十三時半から翔太さんとのアポがある。まだ三十分以上あるから、うちへ来るはずはないだろうし。

気まずい偶然に、途端に顔が強張ってしました。

「そんな怖い顔をするなって。それより、俺の連絡先は登録してくれた?」

私が歩くと、彼も一緒に歩みを進める。いったい、どこまで同じ方向なんだろう。

「いいえ。必要ないので。ご用があるなら、直接会社へ連絡ください」
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