イジワル専務の極上な愛し方
本当に、私も一緒でいいのか迷いがあったけれど、社長から「座りなさい」と言われ、側にあった一人用の腰掛を引き寄せソファ近くに座った。

「それで、浅沼社長。専務と田辺さんの関係というのは、どういう意味で言われているのですか?」

ゆっくりと、静かに尋ねる社長は、簡単には動じないという威厳すら感じる。向いに座る祐一さんのことも、けっして信頼しているわけではなく、本心を探るような目つきで見ている。

それでも祐一さんは、堂々と胸を張って座っていた。彼も、かなり気持ちがタフなタイプみたい。

「はい、お二人が付き合っているのではないかと思っています。実は田辺さんは、僕の学生時代の恋人だったんですよ」

「そうですか。だが、専務と田辺さんの関係は、残念だが私も知らない。専務は、ご存知のとおり息子だが、それほどプライベートを干渉していないのでね」

淡々と話す社長は、なぜこんな話題になっているのか分からないといった様子で首を振った。

「ということは、秘密でお付き合いをされているかもしれないんですね。昨日、初めてここへ来たとき、専務と彼女が同じ香りがするなと思ったんですよ」

そう祐一さんが言うと、翔太さんの眉がピクリと動いた。視線は鋭く、口は堅く閉ざしている。きっと、祐一さんがなにを言い出すのか、黙って聞いているといった感じだ。

「とても品のある香りですから、高級なコロンかと。たまたま二人が同じ物を使っていたというよりは、専務の香りが彼女に移ったと思うべきでしょうね」

だから、私と翔太さんの仲を疑っていたんだ……。なんて、勘が鋭いんだろう。さすが、実業家として成功しただけはある。

付き合っていた頃は、もっと爽やかで普通の好青年といった雰囲気だったのに。今の祐一さんには、男性としての魅力は一切感じない。

「そうだとして、うちとの取引となにが影響するのかね?」

社長の質問に、祐一さんはためらうことなく答えた。

「彼女とやり直したいんです。専務と秘書の社内恋愛。社長は、お許しになりますか?」
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