イジワル専務の極上な愛し方
彼の優しさに、緊張していた心も少し和らぐ。

エレベーターが十五階に着き、正面にお店が見えてきて自分に喝を入れた。

どうしたって硬くなるけれど、そんなことばかり言っていられない。本当に社長に認めてもらいたいなら、私もしっかりしなくては……。

お店の前まで来ると、三十代前半くらいの品のある男性店員が、サッとドアを開けてくれた。

そして、翔太さんに頭を下げて挨拶をすると、慣れた様子で奥へと案内してくれる。

翔太さんは、私の腰に軽く手を当て歩き始めた。

明るい店内は、白いクロスが敷かれた丸テーブルがいくつもあり、見える範囲では満席のようだ。

客層は中年の夫婦らしき人が多く、私たちのような若い人間は浮いてしまいそう。

だけど、堂々としている翔太さんの様子は、お店の高級な雰囲気に負けていなく、そんな彼に改めて惚れ惚れしてしまった。

「どうぞ、真中様。ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」

店内のお客さんからは見えないほど、奥にある個室を案内され入る。

そこは、同じく丸テーブルが置かれ、さらには上質なクリーム色のソファまである。

バルコニーもあるようで、そこへ出られるようになっていた。キラキラと輝くネオンを、ゆっくり見られるみたい。

もちろん、今夜はそんなわけにはいかないけれど……。

店員さんが去ったあと、二人きりになった室内で、翔太さんが私に向かって静かに言った。

「彩奈、今夜は親父にお前と結婚を考えている──、そう伝えるつもりだから」
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