イジワル専務の極上な愛し方
声が若干震える。それでも言い切ると、電話の向こうの彼はアハハと笑い始めた。
まるで、小馬鹿にするように。

《彩奈、お前は本当に分かっていないんだな。今回の取引は、アイシー&ビーのほうから声をかけてきたんだぞ? 俺じゃない》

「え……?」

うちから、祐一さんに……? 私はてっきり、祐一さんから持ち掛けた話だと思っていた。だって、こちらは大手の企業で、業界でも売上トップを争うほど。

かたや祐一さんは、注目を浴びている実業家ではあるけれど、社会的な立場でいえば、翔太さんとはまだまだ対等とはいえない。

大手企業の御曹司と、一起業家。社会で認識されているのは、そういうことだから。

《どうやら、ファッション業界に興味があるみたいだな。たしかに、斬新なプロモーションを仕掛けやすい環境ではあるかもしれない》

そういえば、昨日社長が言っていたっけ。ファッション業界とのパイプを作りたいと。

もしかして、祐一さんはこちらが弱い立場だと思って、挑発しているの? それも、私とやり直したいという、とてもビジネスとは思えない条件で。

「こちらが望んだこととはいっても、祐一さんの条件は常識を外れています」

あくまで冷静に言葉にすると、彼は鼻で笑った。

《世の中な、政略結婚を結んでまで、業務を推し進めるところもあるんだ。男女の事情を持ち出すのは、それほど珍しいことじゃない》

本当に、私をバカにしたような言い方……。彼に、私への愛情があるようにはとても見えない。

「でも、私も専務も条件を呑むつもりはありませんから。祐一さんが、本当に私とやり直したいなんて信じられません」

もう電話を切ってしまおうか。苛立ちを隠さず言うと、それまでのどこか見下したような口調の彼が、急に真面目な雰囲気になった。

《好きだ、彩奈。本当に、別れてから後悔をしていた。こうやって再会ができたのも、きっと運命だと思っている》

「な、なにを言ってるんですか?」

別れてから全然音沙汰なくて、後悔していたなんて今さら言われても信用できるはずがない。

《本気で言ってるんだ。それに、真中専務はやめておけ。だいたい、ファッション業界は、お前の会社なんて必要としていない》
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