イジワル専務の極上な愛し方
訪問先は、カフェ。といっても、カフェの関係者と会うのではなく、カフェで誰かと会うらしい。

その“誰か”を、翔太さんはどうしても教えてくれなかった。

会社に残った私は、書類作成や整理など、通常の業務をこなしながら、どこか悶々とする。

どうして翔太さんは、仕事のことなのに教えてくれないんだろう。

誰に会うかくらいは、教えてくれてもいいのに……。

ひと通り、書類の作成が終わり、午後のメールチェックをする。

定期的に、翔太さんへのアポ依頼が入るから、こまめにチェックしないといけなかった。

「ええと、急ぎのものは……」

件名をチェックしながら、『yuuichi asanuma』という差出人に気づきギクッとする。

これは、祐一さんからのメールだ。件名には”ご連絡です”とだけ書かれている。

送り先は翔太さんで、私はCCに入っていた。ということは、翔太さんも見るはず……。

なにが書かれているのか、緊張しながら開封すると、取引を中止したいという内容だった。

「まさか、本気なの……?」

取引をするだけの十分なメリットがない、そうも彼は言っている。さらに最後には、今後は話をする余地はないという、厳しい言葉もあった。

どうしよう……。このまま、祐一さんとの仕事の話がなくなったら、会社の利益にも影響する。翔太さんや、社長やいろいろな上層部が考えている新しい試みが、なくなってしまうかもしれないんだ……。

さすがに、私がこのメールを返信するわけにはいかない。翔太さんが帰ってきたら、すぐに相談しなくちゃ……。


十七時になり、翔太さんが帰社をする。秘書室に彼が入ってくるとすぐ、私は立ち上がり駆け寄った。

「お帰りなさい。翔太さん、祐一さんからメールが来ていたんです。取引を中止したいと……。どうしましょう……」

どこか、疲れた様子の翔太さんに話すのは気が引けるけれど、仕事だから仕方がない。すると彼は、小さく息を吐いた。

「分かった。すぐに確認するよ」

そう言って、専務室に入っていく。普段より、かなり疲労した様子……。いったい、どうしたんだろう。

気になりながら、給湯室へ入りお茶を入れる。湯気の立つ湯飲みをお盆に乗せ、翔太さんのところへ持っていった。

「翔太さん、なにかあったんですか? とてもお疲れみたいですけど……」
< 87 / 107 >

この作品をシェア

pagetop