イジワル専務の極上な愛し方
翔太さんがお風呂を終えてベッドルームへ来たのは、午前0時を回っていた。

すでにベッドルームにいた私は、彼に駆け寄って努めて普通に声をかけてみた。

「翔太さん、お疲れ様でした。今日は、なんだか忙しそうでしたね」

さらっと聞けば、なにか話してくれるかな……。そう思って聞いてみたけれど、翔太さんは笑みを浮かべただけで、静かに私を抱きしめるだけ。

彼の変わらない愛情はなにより嬉しいけれど、なにかを隠されている気がして落ち着かなかった。

「彩奈……」

翔太さんはそう呟くと、そっと体を離して唇を重ねた。そしてゆっくりベッドへ私を寝かせると、服を脱がせていく。

体を重ね合うことは、なにより幸せを感じる時間。だけど今夜は、どこか寂しかった──。


翌日、午前中に社長に呼ばれ、私たちは社長室を訪れていた。

「浅沼社長から、取引を中止したいと申し出があったみたいだな」

デスクに座っている社長は、黒い革のソファに背をもたれていて、険しい表情をしている。

その姿を見るだけでも、緊張でいっぱいになるくらい威圧的なオーラがあった。

「はい。そもそも、彼の要求はまともなものではなかったので、これでよかったと思っています」

淡々と話す翔太さんに、思わず目をやる。よかったって、それじゃあ業務はどうなるの? ファッション業界とのパイプ作りは……?

「恋愛沙汰で頓挫とは、他の役員に話せる内容じゃない。専務、どう責任を取るつもりだ?」

社長は低く太い声で、真っすぐ翔太さんを見据えている。黙って側にいるだけの自分が、とてももどかしい。

「ファッション業界とのパイプ作りは、他にもできます。今になってやっと、自分のイメージが役に立ちました」

含みのある言い方で、彼がなにを考えているのか分からない。それは社長も同じようで、怪訝な表情を浮かべていた。

「詳しくは、まだ話せない……ということか?」

「はい。ただひとつ言えることは、俺は会社の利益も愛する女性も、どちらも手に入れるということです」
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