イジワル専務の極上な愛し方
「彩奈は、俺の側にいて、いつもどおりしてくれるだけでいい。それで十分、俺は支えられてる」

そんな抽象的な言葉……。嬉しいけれど、私にはなにも力がないと思われているのかな。

複雑な思いで俯いていると、翔太さんはクスッと笑った。

「分かった。きちんと話すよ。じゃあ、そこへ座って」

翔太さんが指さしたのは、部屋の中央にあるソファ。来客時に使う、いつものソファだ。

「は、はい」

よかった。話してくれるんだ。しつこかったかもしれないけれど、聞いてみたのは間違っていなかった。

ホッとしながら座ると、翔太さんは私の隣に腰を下ろした。

「実は、ファッション業界の最大手である、久遠寺(くおんじ)グループと話ができそうでね。浅沼社長が、おそらく憧れにしているはずの企業だ」

「そうなんですか!?」

久遠寺グループといえば、ファッション業界ではカリスマ的な存在と聞いたことがある。

若くてイケメンの副社長がいると、メディアで取り上げられていたっけ。

その企業と、取引ができるかもしれないってこと?

「そう。今回の取引の窓口になっているのは副社長なんだけど、若くて斬新な考えの方だから、妙にウマが合ってね」

微笑む翔太さんに、私も嬉しくなってくる。週末、仕事三昧だったのは、久遠寺副社長に交渉するための資料作りをしていたかららしい。

もちろん、カフェで会っていたのも久遠寺副社長。それならそうと、言ってくれればいいのに。

恨めしく彼を見ると、困った顔をされてしまった。

「そんなに怒らないでくれよ。仕事に関しては、責任は俺にあるんだから」

「……そうですよね。ごめんなさい。ただ、なにかを隠されているようで、寂しかったんです」

ワガママを言って、翔太さんに喋らせてしまったかなと、少しの後悔が込み上げて自然と声が小さくなる。

すると翔太さんは、優しく私の腰に手を回し引き寄せた。
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