イジワル専務の極上な愛し方
「なんだか、祐一さんの気持ちが理解できません。私は、よりを戻す気はありませんから」

今度こそ行こう。そう決めて歩き出そうとしたとき、祐一さんが再び私の手を掴んできた。

「どうしてもか?」

「はい……。手を離してください」

思い詰めたような彼の表情が怖い。掴んでいる手の力も、さっきより強くて、ふりほどいても簡単には離れなかった。

「無駄な抵抗はやめろ。あの頃、彩奈を離して心底後悔していたんだ」

そう言った祐一さんは、私の手を引きビルとビルの間の路地に入る。

通りは賑やかなのに、狭い路地はひとけがない。車も自転車すら通れないような場所だ。

しかも、街灯がそこまで届かず、薄暗かった。そんなところで祐一さんは、私を壁際に追い込むと、痛いほどに手首を掴んでくる。

怖くて、足が震えそう。祐一さんは、なにをしようとしているの……?

「彩奈、目を覚ませよ。真中専務は、女性も仕事も不誠実だ。彩奈なんて、そのうちすぐに捨てられるさ」

“彩奈なんて”という言葉にも、どこまでも翔太さんをバカにする言い方にも、腹立たしくなってくる。

きつく睨む私に、祐一さんはニヤッとしながら顔を近づけてきた。
< 94 / 107 >

この作品をシェア

pagetop