生真面目先生のちょっと大人の恋の話
「俺はさ、ずっと陸上をしていたけど、怪我で断念したんだ。でもどうしても陸上にかかわっていたくて、まずは指導者を目指すようになった。だからせっかくなら本格的に勉強しようとして、大学もスポーツ科学を志望した。」

その辺の事くらいなら、何となく想像は出来る。

私は静かに吉永先生の話の続きを聞く。

「それがさ、いつの間にかデータを追いかける事ばかりに夢中になってしまった。論文のために、選手に無理を強いるようなことをしてしまったんだ。」

すっと目を閉じる吉永先生。

「だから直に選手と、いや、生身の人間と接する機会を求めて、ここに来た。」

吉永先生は辛そうな顔をしている。

きっと言葉に出来ない何かがまだあるのかもしれない。

私は何故かそう感じた。

思わず私は吉永先生を抱きしめていた。

「朝弥?」

吉永先生は一瞬身体を強張らせたが、私に抵抗はしない。

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