憧れのアナタと大嫌いなアイツ

「10分じゃなかったな」

気がつけば小一時間ほど過ぎていた

「大丈夫です」

私はちゃんと笑えてるだろうか
結果的に振ったのは私
でも・・・胸が傷むのは同じ

「明日から、また上司と部下で」

そう言った室長と握手をして車から降りて車を見送った


「遅い!」

「ひっ」

突然門の中から聞こえた声に驚いて振り返ると
不機嫌オーラ満載の柊が立っていた

「え?なに?」

「お前、もう浮気か」

「っ」

突然すぎて言葉に詰まる

いやいや・・・まだ付き合ってないし
浮気って・・・そんな訳ないし

ブツブツ独り言ちる私を見下ろしながら
クスクスと笑った柊の顔は
笑ってるのに何故か泣きそうで
急に胸が締め付けられる

「そんな顔しないで」と頰に触れようとした手を引かれ抱きしめられた

「おかえり」

「ただ、いま?」

ここはうちの家なのにと疑問符をつけてみたけれど

「不安だった」

「帰ってこねぇかと思った」

「俺、カッコ悪りぃ」


柊の口から次々と溢れる切ない声に
キュッと締め付けられる胸が傷む

室長に告白された時には
波立たなかった気持ちが柊の前では簡単に揺れる

私・・・柊のこと

気持ちを確かめるように
柊の背中に手を回した





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