憧れのアナタと大嫌いなアイツ
「もう仕上げだからヘルメットはいらないよ」
社用車のトランクを開いてお決まり通りに不恰好な白いヘルメットに手を伸ばそうとして止めた
「・・・ですよね」
恥ずかしさを誤魔化すようにトランクを閉めると先を行く藤堂室長の背中を追った
「危ないから走らない」
「はい」
それほど高いヒールを履いていないのにまだ舗装の済んでいない砂利道に足が絡れた
「キャッ」
転ぶ!と咄嗟に前へ出した手を強い力が引っ張った
「ほら、だから言ったのに」
頭上から聞こえた声に顔を上げると藤堂室長の心配そうな顔が間近で見えた
「あ、あ、あの・・・」
ーー抱きしめられているーー
現実を受け入れようとするのにパニックの頭の中が上手い言葉を考えられず
瞬時に真っ赤になった顔が熱い
「いちいち反応が可愛い、花乃ちゃん」
「・・・っ」
腕の中で身動き一つ出来ない私を揶揄うように
「おっと、名前呼びはダメだったな」
そう言うと頭をポンポンと撫でて離れた室長
入社以来「花乃ちゃん」と呼ばれなくなって正直寂しかったけど、毎日顔を合わせられるなら例え苗字で呼ばれても我慢すると気持ちを切り替えていたのに・・・
三年振りに名前を呼ばれただけで思考回路がショートしたように動けなくなってしまった