憧れのアナタと大嫌いなアイツ

企画書を手渡しひと通りの説明を終えると30分程経っていた

藤堂室長の補足説明が功を奏したように見えて終始笑顔のお母様

「6月の開館に合わせてのイベント的なものだから・・・日にちも決まっていることだし、とりあえず予定を入れておくわね」

ソファの脇に置いていた手帳を手に取ると書き込み始めた

お茶のおかわりを持ってきた女性が
「戻られました」
と伝えると少し顔を歪めた

「家元をここへ」

言い終える頃には笑顔だったけれど顔を上げた瞬間苛立つ表情を一瞬見せたのを見逃さなかったのは隣に座る藤堂室長も同じだったらしく

お礼を言ってほんの少しこちらを向いた片方の眉が気持ち下がっていたように思えた

「お連れします」

顔を曇らせる程の人物が息子で家元・・・
それだけでも和やかだった雰囲気が壊れるようで不安な気持ちになった

そこから待つこと15分

ノックも無しに突然開いたドアから入ってきたのは和服姿の若い男性
背の高さもあるだろうけれど・・・
チラ見したシルエットは宛らモデル並み

挨拶も無しにソファに腰をおろすと気怠そうに手に取った企画書をパラパラとめくった

シンとした空気が何とも居た堪れないけれど
審判を待つ気分で見つめる

やがて指先が止まり漸くこちらを向いた視線がぶつかった瞬間僅かに目が開いた


ーー・・・っーー
ーーあの時のーー


「・・・オマエ」


発した声は呟きのようで私以外は聞き取れ無かったかもしれない

そんなことよりも全身に走る嫌悪感で指先が急激に冷えて感覚を失くす
仕事じゃなければ失礼を承知で逃げ帰るのに

逃げるに逃げられない

“コイツ”との位置付け
目の前の“家元”と呼ばれる男は
もう二度と会いたくなかった・・・
私を男性恐怖症にした張本人だった


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