憧れのアナタと大嫌いなアイツ
どのくらい泣いていたのか・・・
瞼が重くて頭にも鈍い痛みがあって
鼻もすすり過ぎて痛い
「・・・もう、大丈夫です」
ジャケットのポケットからタオルハンカチを出すと目元を押さえて藤堂室長の腕の中から離れた
離れる間際に見えた藤堂室長のスーツは胸元が黒く滲んでいて薄っすらファンデーションも付いていた
「・・・ごめんなさい、スーツ」
私の視線に合わせるように胸元を見た藤堂室長はニッコリ笑った
「良いさこんな事くらい」
低くて甘い声は破壊的
離れて途端に冷える身体が切ない
近付くだけで怖いと構えていたはずなのに
離れることを残念に思う不思議な感覚
ーー藤堂室長は特別ーー
温かかった胸の中に戻りたいと思えた貴重な時間だった
気持ちが落ち着いてくると冷めた身体と反対に熱を持つ顔が気になる
気合いを入れたマスカラ、アイライン
考えるだけでホラーの顔を思い浮かべて俯いた
「何があったかまでは聞かないけど、長谷川流とはイベントまで打ち合わせも兼ねて何度か顔を合わせるから今のままじゃ辛いぞ?気持ちの切り替えできるか?」
「・・・はい」
絞り出した声は驚くほど掠れていた