憧れのアナタと大嫌いなアイツ

「あ、あ・・・」

あの時と同じように振り解こうと腕を振るけれど
ビクともしないどころか
痛い程指が食い込んでくる

「い、痛っ」

コツコツと小走りのヒール音と全く歩幅の違う革靴の音が絡んで気分を一層焦らしてくる

「離して」

「やだね、離すか」

こちらの気分とは真逆に微笑む柊は
来客用駐車場に止めた車の助手席に私を押し込むとサッと運転席へ回り

逃げ出す暇を与えないくらいの速さで車を走らせた

「あ、あの・・・」

「なんで?」

「困り・・・ます」

勝手に連れ去ったくせに無言でハンドルを握る柊に何度も声を掛けてみるけれど

あまりに無反応で言葉尻が消えそうになる

しばらく走ったところで
不意にこちらを向くと

「ちょっと待ってろ、着いたら話してやるから」

“なっ”って頭を撫でた手と目尻を下げた笑顔を向けられ




不安しか無かった胸がトクンと鳴った





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