憧れのアナタと大嫌いなアイツ


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「「おはようございます」」


朝イチのミーティングはパーテーションで仕切られた簡易スペースですることになった

向かい合って座ると心配そうな目をした藤堂室長

「長谷川流・・・大丈夫か?」

「はい、この前はご迷惑を・・・」

「いや、迷惑とは思ってない」

「ありがとうございます」

「可愛い部下の為だからな」

いつもの様に優しい藤堂室長の言葉
今までなら“可愛い部下の為”なんて言われたら舞い上がっていたはずなのに

至極冷静に受け止めている自分がいて

“可愛い部下”は私だけじゃないとも思った


お昼休憩が終わると前回同様
藤堂室長の助手席に座った
プラスして後部座席にカメラマンとアシスタントさんが同行する

打ち合わせ用に買った白鐘堂の一口チーズケーキを膝の上に置いた

今日はパンフレット撮りの為に家元が実際に花を生けてくれる

アレンジメントの血が騒ぐのか
高揚した気分のまま長谷川流の屋敷に到着した

前回同様、お弟子さんであろう女性の誘導で
絵葉書に出てきそうな日本庭園の中央に建つ茅葺き屋根の離れに通された

緊張したまま座布団を避けて座って待っていると

「お待たせしました」

和服姿の柊とお母様と先程のお弟子さんの他に数名、部屋の外で待機するお弟子さん達

藤堂室長が丁寧な挨拶をするのに合わせて
お辞儀をする

顔を上げた私の目に飛び込んできたのは
こちらをジッと見る柊の姿だった

周りではカメラマンとアシスタントさんが準備を始めているのに

見つめ合ったまま動けない

それを訝しげに見る藤堂室長とお母様は視界の隅に気づいていたけれど
金縛りに遭ったように柊から視線を外せなかった


「さ、始めましょうか」


パチンと手を叩いたお母様のひと声で催眠術から解かれたように肩の力が抜けて漸く張り詰めた空気が動き始めた











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