憧れのアナタと大嫌いなアイツ

パチン、パチン

ハサミが入る度に静寂の世界に色が入る

伸びた背筋、花に触れる長い指、時折細められる目、少し長めの黒髪が俯くたびに顔に浮かぶ印影が息を飲む程美しい

昨日とは真逆の真剣な表情は凛々しくて

花器に息を吹き込むように
アシンメトリーの空間を生み出す指先から目が離せない

ーー綺麗ーー

フラワーアレンジメントと空白の使い方が全く違う世界に魅入られて

食い入るように柊を見つめた


そして‥


最後の花を挿し終えると
花器ごとクルリと反転させて
カメラマンへ向けて口元を緩めた柊


淡く微笑んだだけでピンと張り詰めた空気が和む

その口元のままでこちらを見た柊と
一瞬視線が合った、ただそれだけなのにトクンと胸が跳ねた

慌てて逸らした視線

ーー感じ悪くなかったかなーー

そんなことを思いながら
またひとつ芽生えた気持ちを閉じ込めた


「お茶にしましょう」

お母様の声かけでお弟子さん達が慌ただしく動き始める


一番最後に立ち上がった私の行く手を阻むようにサッと立ち上がった柊は

「この後残って」

首を傾けて耳元で囁いた

「・・・っ!」

近過ぎる!と思うより早く離れた柊は
“どうぞ”と道を開けた




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