憧れのアナタと大嫌いなアイツ

「静かになさい!!」


「「「ひっ」」」

いきなり聞こえた怒りを含んだ低い声の主は

・・・お母様

般若の形相で睨みつけるお母様に慄いたのか三人は逃げるように帰った

え?なぜ?離れに居たはずなのに家の中から?

困惑した頭を左右に振りながら
お母様より怒りを露わにした柊のことを思い出した


「どうした?」

「わっ」

繋いだままの手を強く引いた柊の胸に飛び込んでしまった

「大丈夫か?」

腕の中に閉じ込められて仕方なく柊を見上げると

ハの字に下がった眉と揺れる瞳が見えた
さっきと同じ人物とは思えない甘い顔

「だ、大丈夫っ」

だから離れてと胸を押してみたけれど
全く動かない

その代わりに首を傾けてオデコに口付けた柊

「・・・っ」

違う意味での石化・・・

「まぁ、随分仲良しなのね」

お母様が居たことを忘れていた!
囚われた腕の中から逃れようともがくけれど
全く動く気配が無くて益々焦る

そんな私の気持ちを見透かしたように

「花乃、諦めろ」

低くて甘い声で宥めてくる

「いつまで玄関に居るつもり?気が利かないわね」

お母様が“ごゆっくり”と行ってしまったのに合わせて

「漸く邪魔が消えた」

拘束を解くと“早く”と屋敷の中へと手を引かれた

< 90 / 111 >

この作品をシェア

pagetop