先生と私の見えない赤い糸
課外授業:抗えない「好き」
 布団に入って、かなりの時間が経っていると思う。

「眠れない……」

 この言葉を、寝返りしながら何度呟いただろう。眠ろうと努力すればするほど全然眠れなくて、今日あったいろいろな出来事が頭の中に浮かんでは消えてを延々と繰り返した。

 ぼんやりと思い出してしまうひとつひとつが、いちいち鼓動を高鳴らせて、それがきゅっとするような甘い疼きに変わる。

「ちょっと待ってよ……。この感じって、アレしかないじゃない」

 恋をしたことがないワケじゃない。今までの経験を総合すると、この疼きの正体について、知りたくないけどわかってしまった。わかっているけど、どうしても認めたくない。だって相手が――。 

「なんで……。ボサボサ頭で、顔だって教師の中で一番冴えない三木先生のことを、どうして好きになっちゃったのか、ワケがわからないよ!」 

 枕元においてあるクッションを、意味なくぎゅっと抱きしめた。

 これって、本当に恋なんだろうか。ハッと気がついたら好きになっているこの状態に、今までなったことがないから頭を抱えるしかない。

 考えれば考えるほどに、三木先生の笑顔や大きくてあったかい手や、私を褒めてくれた言葉をいちいち思い出してしまって、ますます混乱するばかりだった。

「きっかけは、あの図書室のデコちゅーなのかな? いやいやあれは、何か違う気がする。そもそも、三木先生のどこが好きなんだよ……」

 元新聞記者として、文章を書くことに長けている。その部分に関しては、憧れたのは確かな事実。的確な三木先生の指導のお蔭もあって、随分と自分の小説が読みやすくなった。

 正直顔は、ぜんぜん好みじゃない。着てる服のセンスも、どうかと思うレベルだし、背だってすっごく高いってワケじゃない。性格だって、ひとことで言っちゃえば「変」と表現できるくらい、ピッタリと当てはまってしまう。

 そのくせ授業中にワザとドジして、みんなを勉強に集中させる裏技をちゃっかり駆使しているみたいだけど。

 ――ワザと、ドジして……。

「まさかとは思うけど、ワザと変人を装って、こっちの気を惹いていたなんてことはないよね!?」

 ――僕の裏打ちされた計算で動かしたんだ。大丈夫だから――

 以前鹿島さんとのやり取りで、こんなことを言った三木先生。

(人の心理に漬け込んで計算できちゃうんだから、先生はカレシ(仮)を実際にやっちゃえって考えて、私のことをそそのかしたんじゃ……)

「まんまと私は恋に落ちるべくして、落とされたのかもしれない。だってあの三木先生のことなんか、好きになるワケがないもん!」

 どうしても、認めたくなかった。NHKなんてあだ名をつけて、自ら率先してバカにしていた相手を好きになってしまったことについて、絶対に認めたくなかった。
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