先生と私の見えない赤い糸
***

 安藤から手紙を数通受け取り、ついに漢字のテスト問題を作るときがきた。

 手元にある手紙の内容を見つめていると、安藤が遠くを見つめる姿が不意に思い浮かんだ。視線の先にはイケメン学生が木陰で佇み、友達と笑顔をまじえて会話をしていて、安藤は自分に気づいてほしくて、熱視線をこれでもかと送っているワンシーンだった。

「フフフ。これなら苦労せずに問題が作れるじゃないか。しかもこれだと生徒たちが無駄に盛り上がって、問題を解いてくれるに違いない!」

 僕としては、ここぞとばかりに張り切って作った問題。それなのに生徒たちは、真逆の反応をしたのだった。

(――どうしてだ? ときめいちゃうだろ?)

 騒然とする教室内で、安藤も同じように頭を抱えている。

「はいはい、意外な才能に感心しないで、さっさと始めろ。時間は十分しかとらないからなー」

 まったくもー、困った奴だなと思いながら制限時間を言うと、みんな慌てて机にかじりついた。

 テストの最中、生徒たちの出来具合と筆跡鑑定をしつつ、机の間をねり歩く。もともと怪しいと思っていた生徒を確認してみると予想通り、手紙と同じ筆跡だった。

 送り主がすぐにわかるだろうと踏んでいたので、放課後呼び出す手筈の手紙を安藤の机に置いてやると、吹き出しながら読む始末。

 そんな顔して吹き出さなくてもいいのに。涙まで浮かべることはないだろうよ。

 それでも自分の書いた手紙に素直に反応してくれることが、ちょっとだけ嬉しかった。
< 20 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop