先生と私の見えない赤い糸
***

 その後、手紙の差出人を呼び出して事情聴取をした。

「これはおまえが安藤に宛てて書いたものだな。証拠は揃っているんだぞ、鹿島」

「どうして三木先生が手紙を持ってるんですか? 何かショック……」

「それはだな、差出人の名前が書いてないものを貰って、安藤が困っていたからだ。返事ができないだろう?」

 必死に説得している最中に、安藤が進路指導室に飛び込んできた。

「鹿島さん?」

「たった今、検証してたトコだ。本人も手紙の差出人だって認めたぞ」

 困り果てる鹿島の顔を見て、安藤はなにを言ったらいいか困ってるようだった。助け舟を出そうと、口を開きかけたそのとき。

「あの鹿島さん、三木先生を使ってあなたを捜し出してごめんね。一方的に手紙をくれても返事ができなかったし、伝えたいことがあったから」

(ふぅん、優しいじゃないか。あんなに迷惑そうにしていたのに、思いやりに溢れるセリフだ)

 ふたりのやり取りに何度か口を挟みながら、友達付き合いを成立させようとしたが、なかなか上手くいかなかくて、次の作戦を緻密に頭の中で組み立てた。

「でも私は、安藤さんが好きなんですっ! 独り占めしたいんです」

 おー、愛の告白だ。響くものがあるなぁ、若いって羨ましい。鹿島がそうくるなら、こっちもその作戦でいかせてもらうか。そう考えて、わざとらしく頭を抱えた。

 名づけて、愛には愛で対抗しちゃうぜ作戦!

「……鹿島、どんなに安藤が好きでも、独り占めはできない。安藤の周りにはいつも、友達が囲っているし――心は僕が独り占めしているからな。何人たりとも誰も入れないんだよ。教師と生徒を越えて、愛し合ってしまったんだ」

 言いながら途中で髪をかき上げたり、安藤への愛を示すように斜め45度のほうを見て、一応格好つけてやった。

「いいい、いきなり、なにを言い出してんの、三木先生っ!」

 そんな僕を見て、安藤が頬を染めながら慌てふためいた。

(おー、猛烈に照れてる照れてる。結構可愛いじゃないか)

「もう安藤ってば真っ赤な顔して、そんなに照れることないだろ。誰にもおまえを渡したくないから、つい本音が漏れてしまってだなー」

 僕が至極真面目な顔して言うと、安藤はハニワみたいな顔でフリーズした。もしかして、すっごく心に響いてしまったとか?

「でも安藤さん、三木先生に変なあだ名をつけて、率先してバカにしてましたけど」

「ああ、NHKのことだろ。あれはだな、みんなの前でバカにして、他の誰にも捕られないようにした、奈美なりの予防線なんだよ。NHKの本当の意味だって、濡れちゃうほど惹きつけられて困っちゃうの略だしな」

 とって付けたNHKネタに内心笑いつつ安藤を見ると、辛抱たまらないという表情を浮かべた。せっかくの作戦がダメにならないようにすべく、これ以上余計なことを言わせないように、その口を塞いでやることにした。

 文句を言いかけた安藤に向かって颯爽と歩み寄り、強引に肩を抱き寄せる。もう自力で教師と生徒の壁を越えちゃいましたを、勝手にアピールしてやった。

「三木先生と安藤さん、もう深い仲なんですね……」

 ありがたいことに鹿島は信じてくれたので、秘密の共有をすることで、安藤との仲を友達として保ってくれるように上手く謀ってやった。

 ナイトのように半端なく決まってる僕を、安藤は白い目で見つめる。先生はカレシ(仮)の関係なのに、冷たい視線だよな。

 恐怖のラブレター地獄から解放されて安堵のため息をつく安藤に、放課後自宅に寄るように言い伝えた。

「安藤はよくまぁ、ここまで表情がクルクルと変わるよな。ペンネームはやっぱ、カメレオン奈美がいいぞ」

 口元を綻ばせる安藤に、つい本音が漏れてしまった。そんな僕の足に体重をかけて思いっきり踏んでいった生徒を愛しいと思ったのは、ドMだからだろうか?
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