冬至りなば君遠からじ
 思った通りのセリフだった。

 見る前から分かっていたよ。

 いっそのこと、青汁を飲んだ途端に元気になって、インド映画みたいにみんなで踊り出して無理矢理感満載のフィナーレでしめくくってくれた方が話題になって良かったんじゃないか。

 エンドロールが始まると、元々まばらだったお客さんはみんなすぐに出て行ってしまった。

 居眠りしていたおじさんもあわてて出て行く。

 僕は最後まで残って一人座っていた。

 客席が明るくなる前に、僕はハンカチで涙を拭いた。

 こんなベタな映画で涙を流しているなんて知られてはいけない。

 でも、どうしてだろう。

 どうしても涙が止まらなかった。

 僕は何かを思い出しそうだった。

 でも、何も思い出せなかった。

 それなのに、頬を流れていく涙のぬくもりが懐かしい。

 僕は確かにこのぬくもりを知っている。

 どうしてだろう。

 まだ、恋なんてしたことないのにな。
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