冬至りなば君遠からじ
 学校が終わると、高志と凛は一緒に線路の北側へ遊びに行く。

 春の新作パフェにはまっているらしい。

 僕は相変わらず一人でため池の脇道から線路沿いに歩く。

 歩行者用踏切が警報を鳴らして遮断機が下りる。

 朝も帰りも変わらない風景だ。

 僕はあてもなく笹山公園に行ってみた。

 桜の季節は終わっていたけど、芽吹き始めた若葉がとてもきれいだ。

 街の反対側の可也山まで淡い色彩に覆われていた。

 もうだいぶ日が長くなってきていて、夕方だけど明るい。

 展望台のコンクリート階段に腰掛けて糸原の風景を眺めていると、石段を上がってくる人がいた。

 昼間廊下でぶつかった一年生の女子だった。

「先輩、こんにちは」

 僕は声が出なかった。

 凛以外の女子に話しかけられたことがないからだ。

「昼間の、覚えてますか」

 僕はかろうじてうなずいた。

「すみません。変な先輩だなって思ったから尾行してきちゃいました」

 おもしろい子だなとちょっと笑ってしまった。

 おかげでやっと声が出た。

「ストーカーじゃん。君も変だよ」

「じゃあ、お似合い、じゃなくておあいこってことで」

「まふゆさんだっけ」

「幽霊じゃありませんよ」

 彼女は僕の隣に座った。

 凛以外の女子がこんなに近くに座る事なんてなかったから、顔が熱くなった。

 甘い香りが漂う。

 僕は気づかれないように深く息を吸い込んだ。

「先輩、昼、廊下でぶつかったとき、何で私のことを幽霊かって聞いたんですか」

「そんなこと聞いた?」

「忘れたなんて、ずるいですよ」

「ごめん。ぶつかったことは謝るよ」

「ふつう、初対面の女の子に幽霊ですかなんて聞かないですよ」

「何でそんなこと言っちゃったのか本当に覚えていないんだ。僕にも分からない」

「分からないのに聞いたんですか。ホント、わけわかんない」

 すると彼女はいきなり僕の手をつかんだ。

「私、幽霊なんかじゃないですよ。ほら、手を握ることもできるし、私の方があたたかいですよ。先輩の方が幽霊なんじゃないですか」

 僕はあわてて手を引っ込めた。

 脇汗が出てしまった。

「手なんて握られたことないから恥ずかしいや」

「あたたかいかどうか確かめてほしかっただけですよ。勘違いしないでください」

「ごめんね」

 さっきから僕は謝ってばかりだった。

 女の子はふふっと微笑んで可也山の方を眺めていた。

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