冬至りなば君遠からじ
僕は沈黙がこわくて何か言わなくちゃと焦った。
焦れば焦るほど何を言ったらいいのか分からなくなってしまった。
隣に座る女の子の横顔を眺めながら必死に言葉を探した。
睫毛の濃い一重まぶたの目に緩やかに弓を描く眉。
丸みを帯びた頬に笑みが浮かんでいる。
「何見てるんですか?」と女の子がこちらを向く。
僕はあわてて視線をそらした。
「ここから見る空を昔誰かと見ていた気がするんだ」
僕は膝の上に両手をついて腕を伸ばしながら動揺をごまかした。
「でも誰なのか思い出せないんだ」
肩がコキッと鳴る。
「でも、その誰か分からない人のことを思うと、気分がいいんだ」
「誰なんでしょうね」と女の子が首をかしげる。
「幽霊かもね」
「幽霊さんと知り合いなんですか」
「わかんない。なんか心にぽっかり穴があいちゃって」
ふうん、そうなんですか、と彼女がつぶやいた。
「私、幽霊じゃありませんからね」
彼女は何度も同じ言葉を繰り返していた。
「ごめんね」
彼女のおなかが鳴った。
「おまんじゅう食べる?」と僕は尋ねた。
「おじいちゃんみたいですよ。私のことを幽霊って言ったり、やっぱり先輩って変わってますよ」
僕が鞄から箱ごと取り出すと笑ってくれた。
「何でそんなの持ってるんですか?」
「おいしいよ、これ」
「いただきます」
彼女は一つ取ってビニールを破ると、ぱくりと半分口に入れた。
「このおまんじゅうおいしいですね。私、初めてです。なんていう名前なんですか」
「それは博多のお土産物だよ。白あんと生クリームと蜂蜜のバランスが絶妙だろ」
「福岡ってこんなにおいしいお菓子あるんですね。私、春からここに引っ越してきたんですよ。公園のすぐそばの新しい住宅地です」
「ああ、あそこか。だいぶ家が建ったよね」
僕は彼女に箱を差し出した。
にっこり笑ってもう一つおまんじゅうを受け取ってくれた。
映画を見に行ったときに買っておいて良かったなと思った。
映画そのものはあれからすぐに打ち切りになっちゃったらしいけどね。
糸原奈津美は主演の器じゃないとか、演技が大根とか、モデルだけやってればいいのにとかネットでさんざん叩かれていて気の毒だった。
彼女はペリッとビニールを破って二個目のおまんじゅうを口に入れる。
のどに詰まったのか、胸を叩いて苦笑いしている。
いい笑顔だ。
僕がゴミを受け取ると、「ありがとうございます」とかわいらしく頭を下げてくれた。
焦れば焦るほど何を言ったらいいのか分からなくなってしまった。
隣に座る女の子の横顔を眺めながら必死に言葉を探した。
睫毛の濃い一重まぶたの目に緩やかに弓を描く眉。
丸みを帯びた頬に笑みが浮かんでいる。
「何見てるんですか?」と女の子がこちらを向く。
僕はあわてて視線をそらした。
「ここから見る空を昔誰かと見ていた気がするんだ」
僕は膝の上に両手をついて腕を伸ばしながら動揺をごまかした。
「でも誰なのか思い出せないんだ」
肩がコキッと鳴る。
「でも、その誰か分からない人のことを思うと、気分がいいんだ」
「誰なんでしょうね」と女の子が首をかしげる。
「幽霊かもね」
「幽霊さんと知り合いなんですか」
「わかんない。なんか心にぽっかり穴があいちゃって」
ふうん、そうなんですか、と彼女がつぶやいた。
「私、幽霊じゃありませんからね」
彼女は何度も同じ言葉を繰り返していた。
「ごめんね」
彼女のおなかが鳴った。
「おまんじゅう食べる?」と僕は尋ねた。
「おじいちゃんみたいですよ。私のことを幽霊って言ったり、やっぱり先輩って変わってますよ」
僕が鞄から箱ごと取り出すと笑ってくれた。
「何でそんなの持ってるんですか?」
「おいしいよ、これ」
「いただきます」
彼女は一つ取ってビニールを破ると、ぱくりと半分口に入れた。
「このおまんじゅうおいしいですね。私、初めてです。なんていう名前なんですか」
「それは博多のお土産物だよ。白あんと生クリームと蜂蜜のバランスが絶妙だろ」
「福岡ってこんなにおいしいお菓子あるんですね。私、春からここに引っ越してきたんですよ。公園のすぐそばの新しい住宅地です」
「ああ、あそこか。だいぶ家が建ったよね」
僕は彼女に箱を差し出した。
にっこり笑ってもう一つおまんじゅうを受け取ってくれた。
映画を見に行ったときに買っておいて良かったなと思った。
映画そのものはあれからすぐに打ち切りになっちゃったらしいけどね。
糸原奈津美は主演の器じゃないとか、演技が大根とか、モデルだけやってればいいのにとかネットでさんざん叩かれていて気の毒だった。
彼女はペリッとビニールを破って二個目のおまんじゅうを口に入れる。
のどに詰まったのか、胸を叩いて苦笑いしている。
いい笑顔だ。
僕がゴミを受け取ると、「ありがとうございます」とかわいらしく頭を下げてくれた。