冬至りなば君遠からじ
「先輩、こんにちは」

 いきなり声をかけた。

 先輩は凛を見たけど、やはり無表情だ。

「昼間の、覚えてます?」

 先輩は返事をしない。

「あ、いや、別に文句言いに来たとかじゃないです。先輩に興味があって、ついて来ちゃいました。すみません」

 こういうときに素直に全部白状してしまうのが凛だ。

 本人曰く、面倒だからだそうだ。

 隠しても後々ばれたら面倒だし、嘘を考えるのも面倒なんだそうだ。

 どこまで隠したかも分からなくなるハムスター並みの単純な頭だからだと自分で言っていた。

『あたし、自分でついた嘘なんて、すぐ忘れちゃうからさ。どうせ怒られるなら、後回しにしない方がトクじゃん』という哲学は僕も見習いたいところだ。

 先輩は凛と僕を交互に見て、「そうか」とつぶやいた。

「うちら、一年B組の柳ヶ瀬凛と星朋樹です。先輩、お名前は?」

「ひとひらまふゆ」

「へえ、いい名前ですね」

 先輩は無表情に「そうか」とつぶやいた。

 すると、凛が思いがけないことを言った。

「こいつ、先輩とつながりたいらしくて、スマホ教えてもらっていいですか」

 はあ?

 僕?

 凛が僕の腕をつつく。

「ほら、スマホ出しなよ」

 仕方なく学生服のポケットからスマホを出すと、先輩も鞄からスマホを取り出して凛に渡した。

「やりかたが分からぬゆえ、たのむ」

 ずいぶんと古くさいしゃべり方だ。

 凛が慣れた手つきで両手に持ったスマホを振って連絡先を交換した。

 僕のを投げてよこすと、今度は自分のスマホを取り出した。

「あたしもいいですか」

 まふゆ先輩はやはり無表情にうなずいた。

 スマホの画面には「一片まふゆ」と表示されていた。

「ひとひら」ってこういう漢字なんだな。

「どうもありがとうございます。じゃ、うちらはこれで」

 凛がスマホを先輩に返して僕の腕を引っ張った。

 僕が軽く頭を下げるとまふゆ先輩は冷たい目で僕を見つめて、それから何もなかったかのように空の方へ視線を移した。

 西の空にはまぶしい夕日が輝いていた。

 でも、先輩はまばたきもせず、目を見開いたままじっと座っていた。

「ほら、行くよ」

 凛が石段の方へ跳ねるような足取りで駆けていく。

 僕もあわててついていった。
< 11 / 114 >

この作品をシェア

pagetop