冬至りなば君遠からじ
「まふゆさん」

「はい」

「消えたりしないよね」

 彼女がうなずく。

「もう、幽霊じゃありませんから」

 まふゆさんが僕に手を差し出した。

 僕はその手を握ってブランコから立ち上がった。

 彼女の手はあたたかい。

「もう、どこにも消えたりしませんから」

 まふゆさんが僕を見つめていた。

 もう幽霊じゃありませんから。

 ただいまって言うために、おかえりって言ってもらうために、さよならを言ったんです。

「え?」

 言葉は何も聞こえてこないのに気持ちは伝わってくる。

 ただいま、朋樹。

 懐かしい声だ。

 僕はこの声を知っている。

 まふゆさんが真っ直ぐ僕を見つめていた。

 もう、幽霊じゃありませんから。

 もう、どこにも消えたりしませんから。

 私はまふゆです。

 私は消えたりしません。

 私はここにいます。

 もう二度といなくなったりしませんから。

 僕は彼女を抱きしめた。

 二人で星空を見上げるのは初めてだった。

 ぽっかり空いた心の穴に何かが埋まっていく。

 満たされていく。

 懐かしい気持ちがあふれ出してくる。

 いつのまにか頬にあたたかいものが流れていた。

 僕はこのぬくもりが何なのか知っている。

 こんなとき、なんて言うんだっけ。

 ……何も思い出せない。

 ああ、そうだ。

 もう、恋なんてしない。

 そんなふうに思っていた時もあった。

 でも今は違う。

 このぬくもりは幻なんかじゃない。

 二度と消えることのない確かな気持ちなんだ。

「おかえり、まふゆ」

「ただいま」

 僕の腕の中で彼女がうなずいていた。

< 113 / 114 >

この作品をシェア

pagetop