冬至りなば君遠からじ
先輩の謎
糸原高校には有名人の卒業生がいる。
糸原奈津美というタレントさんで、本名は村島と言うらしい。
在学中に博多でスカウトされて読者モデルとしてデビューしたそうだ。
人気が出てテレビに呼ばれるようになって、卒業後に九州ローカルテレビ番組のレギュラーになった。
最近は全国ネットのバラエティ番組にも少しは出るようになったそうだ。
うん、微妙だ。
地元の不動産会社とローカルCM契約をしているらしく、店舗前に大きな顔写真がプリントされた幟旗が出ている。
うちの高校の連中がガストの隣にあるその不動産屋の前を通りかかると、幟旗に飛び込んで、「俺、糸原奈津美とチューした」と騒ぐのがお約束になっている。
高志も毎朝それをやっているらしく、今朝も踏切の方から駆けてきて校門の前で僕らと合流するとそんな話をしはじめた。
凛が眉間にしわを寄せてつぶやく。
「あんたさ、他の男子が飛び込んだ旗にチューしてるんだよ。BL間接キスじゃん」
「うわ、マジかよ。やべえ」
期末試験も近いのに、こんな話で盛り上がる底辺高校だから、在学中のことはテレビでは一切話さないらしい。
そりゃそうだろうと思う。
つきあっていたとかいろいろ噂されるのも迷惑だろうし、写真とかを拡散されるのも嫌だろう。
今のところ微妙なタレント活動だから何ともなくて済んでいるのかもしれない。
高志が後ろから僕の両肩をつかむ。
「そういやさ、昨日あの幽霊みたいな先輩と連絡先交換したんだって?」
「なんで知ってんの?」
「きのう凛からスマホに入ってたからさ」
「何が?」
「おまえら二人の写真。『うらやましいだろ』って」
なんであれを?
あれ、あの写真は僕のスマホで撮って先輩に送ったんだよね。
送信履歴を確かめたら、しっかり先輩と凛の二人に送られていた。
ちょっと、何やってんの?
しかも無断でそれを高志に転送するなんて。
凛は知らんぷりだ。
「俺とは絶対に撮らないくせにさ」
高志が僕のスマホをひったくる。
「へえ、イチカタ先輩って言うんだ」とつぶやきながら放って返す。
「違うよ、『ひとひら』だよ」
「タレントの糸原奈津美より、あの先輩の方が美人じゃねえ? 清楚で謎めいた感じもいいよな」
昨日は廊下で喧嘩ふっかけてたくせに。
「ほお、鴻巣高志サマは、ああいうのがタイプですか」
凛の言葉に高志がにやける。
「おまえは正反対だもんな。開けっぴろげ、おっぴろげ」
凛が手のひらを大きく広げて高志の背中を叩く。
いい音がする。
高志が恍惚の表情を浮かべる。
「今日もありがとうございます、凛様」
高志が右手で敬礼しながら昇降口へ駆けていく。
「ホント、あいつムカツク」
あーあ。また朝から機嫌悪くしちゃって。
どうしてくれるんだよ。
糸原奈津美というタレントさんで、本名は村島と言うらしい。
在学中に博多でスカウトされて読者モデルとしてデビューしたそうだ。
人気が出てテレビに呼ばれるようになって、卒業後に九州ローカルテレビ番組のレギュラーになった。
最近は全国ネットのバラエティ番組にも少しは出るようになったそうだ。
うん、微妙だ。
地元の不動産会社とローカルCM契約をしているらしく、店舗前に大きな顔写真がプリントされた幟旗が出ている。
うちの高校の連中がガストの隣にあるその不動産屋の前を通りかかると、幟旗に飛び込んで、「俺、糸原奈津美とチューした」と騒ぐのがお約束になっている。
高志も毎朝それをやっているらしく、今朝も踏切の方から駆けてきて校門の前で僕らと合流するとそんな話をしはじめた。
凛が眉間にしわを寄せてつぶやく。
「あんたさ、他の男子が飛び込んだ旗にチューしてるんだよ。BL間接キスじゃん」
「うわ、マジかよ。やべえ」
期末試験も近いのに、こんな話で盛り上がる底辺高校だから、在学中のことはテレビでは一切話さないらしい。
そりゃそうだろうと思う。
つきあっていたとかいろいろ噂されるのも迷惑だろうし、写真とかを拡散されるのも嫌だろう。
今のところ微妙なタレント活動だから何ともなくて済んでいるのかもしれない。
高志が後ろから僕の両肩をつかむ。
「そういやさ、昨日あの幽霊みたいな先輩と連絡先交換したんだって?」
「なんで知ってんの?」
「きのう凛からスマホに入ってたからさ」
「何が?」
「おまえら二人の写真。『うらやましいだろ』って」
なんであれを?
あれ、あの写真は僕のスマホで撮って先輩に送ったんだよね。
送信履歴を確かめたら、しっかり先輩と凛の二人に送られていた。
ちょっと、何やってんの?
しかも無断でそれを高志に転送するなんて。
凛は知らんぷりだ。
「俺とは絶対に撮らないくせにさ」
高志が僕のスマホをひったくる。
「へえ、イチカタ先輩って言うんだ」とつぶやきながら放って返す。
「違うよ、『ひとひら』だよ」
「タレントの糸原奈津美より、あの先輩の方が美人じゃねえ? 清楚で謎めいた感じもいいよな」
昨日は廊下で喧嘩ふっかけてたくせに。
「ほお、鴻巣高志サマは、ああいうのがタイプですか」
凛の言葉に高志がにやける。
「おまえは正反対だもんな。開けっぴろげ、おっぴろげ」
凛が手のひらを大きく広げて高志の背中を叩く。
いい音がする。
高志が恍惚の表情を浮かべる。
「今日もありがとうございます、凛様」
高志が右手で敬礼しながら昇降口へ駆けていく。
「ホント、あいつムカツク」
あーあ。また朝から機嫌悪くしちゃって。
どうしてくれるんだよ。