冬至りなば君遠からじ
 線路を渡って北側の住宅街に入る。

 昨日の笹山公園とは反対方向になる。
 
 狭い路地のすぐ先に大きな楠が何本も生えた場所が見える。

 若松神社だ。

 盛大なお祭りがあって、この地域では一番有名な神社だ。

 弁天様と学問の神様を祀っている境内には、撫でると御利益があるという黒牛の置物がある。

 小学生のころは凛と高志と三人で鬼ごっこやかくれんぼなんかをやっていたものだ。

 凛は遊びに来ると必ず黒牛に抱きついていたものだけど、今の成績を考えると僕もちゃんと凛のためにお願いしておけば良かったと思う。

 さすがに乗っかったりするような罰当たりなことはしてないから、神様だって見捨てたわけじゃないだろう。

 先輩は裏口の石段から境内に上がって、奥社を回って社殿の正面に出た。

 お参りするのかと思ったら、素通りして境内の隅にあるブランコに腰掛けた。

 戸惑っていると、先輩がこちらを見上げて冷たい瞳でじっと僕を見つめた。

 僕は黙って隣のブランコに座った。

 中学生の時、一度だけ凛と二人でブランコに乗ったことがある。

 あのときは凛と高志が喧嘩して、機嫌の悪い凛に連れてこられたんだった。

 何で二人が喧嘩したのか覚えていないけど、不機嫌に黙ったままの凛と一緒にただブランコを揺らしていたことを覚えている。

 凛の涙を見たのはあの時だけだ。

 僕は凛を泣かせたことはない。

 たぶん。

 先輩が黙ったままなので、そんな昔のことを思い出してしまった。

 夕暮れの光が木々の枝をすり抜けて、正面から先輩の顔を照らしている。

 相変わらず目は見開いたままだ。

 まぶしくはないのだろうか。

「夕日がまぶしいですね」

「そうか」

 先輩は一言つぶやいて僕を見た。

 夕日に目がやられていて、視界の中央が黒くなってしまった。

 僕は何度か瞬きをした。

 先輩は僕をじっと見ている。

 気まずい空気をなんとかしようと、僕は必死に話を続けた。

「先輩は、卒業したらどうするんですか」

「卒業?」

「進路とか」

「進路?」

 全部質問で返されるとは思わなかった。

 でも、不愉快な感じではなく、話が続くだけむしろ愉快だった。

「まだ何も決まってないんですか」

「そうだな」

「大学受験するんですか」

「しない」
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