冬至りなば君遠からじ
 ポケットでスマホが震えた。

 凛からだった。

 高志と二人でパフェをつついている写真だ。

 高志の鼻にクリームがついている。

 何の罰ゲームなんだろう。

「きのう一緒だった柳ヶ瀬っていう女子からです」

 僕は先輩にスマホを見せた。

 まるで興味なさそうな目でちらりと見て、また正面を向いてしまった。

 廊下で凛とぶつかったときと同じ感情のない目だった。

 僕は『先輩と一緒にいる』と返信した。

 ポケットにしまう間もなく、またすぐにスマホが震える。

『先輩の写真撮って送ってよ』

 僕はメッセージ画面を先輩に見せた。

「写真撮って柳ヶ瀬に送ってもいいですか」

 先輩は僕をじっと見つめてうなずいた。

 スマホの画面を見つめながら僕は息をのんだ。

 黒髪の一本一本が夕日に照らされてきらめいている。

 この一瞬を残したい。

 僕はスマホのシャッターボタンを押した。

「こんな感じですけど、いいですか」

 僕は先輩に画面を見せてから凛に送信した。

 すぐに既読がついたけど返信はなかった。

 僕はそのまま先輩の横顔を見ていた。

 こんなふうに女の人の表情をじっと見ているのは初めてだった。

 凛だったら、「なんだよ、こっち見んなよ」って怒られるだろうし、凛以外の女子を見ていたら「なんかじろじろ見てる人がいるんですけど」なんて変態扱いされるに決まってる。

 もちろん、僕の方だって照れくさくて見ている余裕なんかない。

 僕にとって女子との関わりなんてそんなものだった。

 先輩は感情を見せない。

 だから僕も見ていて恥ずかしさとか、照れくささといったよけいな感情は何も起こらなかった。

 不思議な感覚だった。

 美術館に展示してある裸の女神像を観察しているみたいだった。

 だんだん日差しが弱くなってきて、天上の藍色が濃くなっていく。

 ブランコに座り続けていたせいか冷えてきて体が自然に震え始めた。

 僕はスマホをポケットにしまってブランコをこいだ。

「ほう、これは動くのか」

 先輩も僕の真似をする。

 動くのかって、そりゃブランコですから。

 僕が前に出ると先輩が後ろに下がり、逆のリズムですれ違う。

 僕が勢いをつけると、先輩も長い脚をのばして飛んでいきそうな勢いでこぎ続ける。

 住宅街に日が隠れて境内が暗くなる。

 僕はブランコから飛んで前に出た。

 振り向いた時、空のブランコだけが揺れていた。

 僕の乗っていたブランコのことではない。

 隣にいたはずの先輩もいなくなっていたのだ。

 急にどこかに隠れたのかと辺りを見回したけど、誰もいなかった。

 最初から誰もいなかったかのように、僕のブランコだけが揺れていた。

『先輩、どこですか』

 スマホにメッセージを入れてみたけど、既読はつかなかった。

 さっきの写真を表示させた。

 僕のスマホに先輩の写真が映っている。

 相変わらず冷たい瞳で無表情だけど、僕には微笑んでいるように見えた。

 冬の夕日は急激に消えてしまって、天にぽっかりと穴があいているかのように空はすっかり暗くなっていた。

 やっぱり既読はつかなかった。

 僕は一人、家路についた。
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