冬至りなば君遠からじ
 風が吹いて落ち葉が舞う。

 欅の木の枝を揺らす風が口笛を吹いて冷やかすような音をならす。

 今日も夕日が横から山を照らしている。

 先輩は僕をじっと見ている。

 先輩の顔には日が当たって頬とおでこが輝いている。

 あいかわらず大きな瞳だ。

 夕日に輝く髪の毛の一本一本を北風が揺らしていく。

 急に背筋が寒くなってきた。

 目の前にいる人が幽霊だと言われても信じていいのか分からないし、嘘だとしても、ちょっと笑えない冗談だ。

 どちらにしろ当惑しかない。

 僕はつまらないことを聞いた。

「夕日がまぶしくないんですか」

「まぶしいというのは何だ」

 まぶしいとは?

 いざ説明しようとするとなんて言ったらいいのか分からない。

「強い光で目が痛くなったり見えなくなったりすることですかね」

 僕の説明で通じたのか、先輩がつぶやく。

「まぶしくはない。幽霊だからな。私には感覚というものがない」

 先輩は表情を変えず淡々としゃべる。

 男っぽい言葉だけど、声はとても優しい。

 冗談や嘘の入る余地はなさそうだった。

 それがますます僕から言葉を奪っていく。

 公園のこの一角だけが別の世界に切り離されてしまったかのようだった。

「私には痛みも感情も時間の感覚もない」

「でも、先輩はスマホも持ってるし、この前、凛とぶつかったじゃないですか。幽霊なのに素通りじゃないんですね」

「普通はそうなのか」

「普通の幽霊に会ったことがないから分かりません」

「では、私が普通ではないのかもしれない」

 そもそも幽霊自体が普通じゃないよな。

 根本的にこの会話がおかしいんだ。

 後で、「冗談だ本気にするな」と言われても僕は先輩を嫌いにならないような気がした。

「信じられないというのなら、もうすぐ日が暮れる」

 そう言うと先輩は僕に手を差し出した。

 僕は一瞬迷ったけど、右手を差し出した。

 先輩が僕の手に触れた。

 冷たさが指先に伝わる。

 手袋をしていないから僕の指だって冷たいけど、それだけではない冷たさだった。

 氷のように指が張り付いてしまうのではないかという冷たさだった。

「寒くないんですか」

「幽霊だからな。何も感じない」

 僕は日が沈む西の空を見た。

 頭の上の空はすでに藍色が濃くなっていた。

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