冬至りなば君遠からじ
 ふと、指先が温かくなったような気がして先輩の方を向いた。

 誰もいなかった。

 僕はコンクリートの階段に向かって右手を差し出している変な人だった。

 片想いの相手にダンスを申し込む練習をしている寂しい人みたいだ。

「先輩、どこですか。いないんですか」

 さっきの言葉通り、先輩は消えてしまった。

 不思議なことに、指先にはぬくもりが残っていた。

 さっきはあんなに冷たかったのに。

 僕の背中を押すように北風が吹き抜けていく。

 先輩の座っていた階段に枯れ葉が舞う。

 公園の木々の枝が風に揺れて鞭のような音を立てる。

 指先のぬくもりは消えてまた冬の冷気に包まれていった。

 天はぽっかりと穴が開いたように暗闇に覆われていた。

 また明日会えるんだろうか。

 僕は落ち葉を一枚拾った。

 別にきれいな物じゃない。

 端が欠けて、虫食い穴も開いている。

 ノートに挟んで鞄にしまった。

 ふと、凛のことを思った。

 こんなことをしているところを見られたら笑われるだろう。

 でも、笑ってくれた方がいいような気もした。

「幽霊に恋するなんて、朋樹らしいよ」

 僕は機嫌のいい凛の笑顔を思い浮かべながら笹山公園の石段を下りた。

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