冬至りなば君遠からじ
 高志は踏切を渡るとパチンコ屋の角を曲がって脇道に入った。

 こっちは高志の家とは逆方向だ。

 スーパーのフードアイに買い物でも行くのかな。

 でも、キロ単位の冷凍牛肉とか買っても昼ご飯にはならないんだよな。

 他の糸高生がいなくなったところまで来て、ようやく高志が口を開いた。

「きのうさ、俺、あいつの部屋に行ったじゃん」

「勉強したの?」

「そのつもりだったんだけどさ」

 ということは勉強以外のことをしたのか。

「俺さ、あいつにキスしようとしたんだよ」

 え、今朝の凛が言ってた話、本当だったの?

「俺、あいつのこと、本気で好きなんだよ。おまえにも言っただろ」

 そう聞いたから昨日は遠慮して二人だけにさせておいたんだけど。

 それが裏目に出たのか。

 フードアイのやたらと広い駐車場まで来て、高志は店の中には入らずに隅の方へ移動した。

 冬の低い日差しを反射してアスファルトがスケートリンクのようにきらめいている。

 高志が自販機でホットコーヒーをおごってくれた。

 それより、店の中に入った方が暖房が効いてていいんだけどな。

 缶コーヒーを一口飲んで高志が言った。

「最初はちゃんとやってたんだけどさ、勉強って飽きるじゃん」

 うん、そうだね。

「で、ちょっと軽い冗談のつもりで顔を近づけたわけさ。そしたらさ、あいつよけたんだよ。後ろにさ。すっと」

 してないって言ってたもんな。

「だからさ、俺、あいつのこと押し倒しちゃったんだよ」

 何やってんの。

「もちろん、冗談っていうかさ。気持ちは本気なんだけど、本当にそんなことするつもりじゃなくて、もちろんやめるつもりだったんだけどさ。あいつがパシッて平手打ちでもしてくれたら笑ってごまかせるはずだったんだよ。なあ、信じてくれよ。俺がそんなこと本気でするやつじゃないのはおまえだって分かるだろ」

「まあね」

 確かに高志はそれほどいい加減な男じゃない。

 というより、そんな度胸のある男じゃない。

「あいつ、結構華奢なんだよな。見た目というか、雰囲気とか、なんかまあ態度はでかいのにさ、肩なんかすごく華奢でさ」

 僕は二人の姿を想像してしまった。

 高志に押さえつけられている凛を想像して顔が熱くなってきてしまった。

「あのよ、おれ、肩を押さえつけたんだけどさ、胸とか、そういうのは絶対触ってないからよ。それは信じてくれよ。な、ホントだぜ。冗談のつもりだったんだよ」
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