冬至りなば君遠からじ
 高志が空き缶をゴミ箱に投げつけて黙り込んでしまった。

 ポケットに手を突っ込んで背中を丸めて駐車場のアスファルトを蹴る。

 ポケットから手を出して右手の拳を左手にぶつける。

 何度も自分で自分の手を殴りつける。

「あいつさ」

 高志の目から涙があふれ出てきた。

「あいつ、ぼろぼろ泣きはじめてさ。ぼろぼろぼろぼろ泣いてんだよ。『ごめん、ふざけてた』って言っても泣き止まなくてさ。声も出さずにただぼろぼろ涙流して泣いてんだよ。本気で謝ったけど、あいつ俺のこと見てないんだよ。でかい目開けてぼろぼろ涙流しながら俺じゃない何かを見てるんだよ。一生懸命謝ったんだけどさ。俺、逃げて来ちゃったよ」


 僕は何も言えなかった。

 頭の中が空っぽだった。

 斜めの日差しがまぶしいせいじゃない。

 高志が泣きながら思いがけないことを言った。

「あいつさ、おまえの名前を呼んだんだよ。泣きながら『助けて、朋樹』って」

 凛が?

 なんで僕?

「俺じゃないんだなって悔しかったよ。もう終わったなってさ。今までずっと好きだったのに、俺、何やってるんだろって。おれ、あいつの笑顔が好きなんだよ。俺さ、あいつを泣かせようなんて思ったこと一度もないぜ。なのに、なんであの時だけ、あんなことしちまったんだろう」

 中学の時に喧嘩して泣かしてたぞって言おうとしたけど、あれは後で高志のいないところで泣いてたんだから、知らないんだろうな。

 高志が僕の肩をつかんで揺する。

「今更後悔してもどうにもならないけどさ、どうやって謝ったら許してもらえるかな。土下座でも何でもするぜ。飛び込めっていうなら、電車にだって飛び込むぜ」

「街中の迷惑だから止めろよ」

 僕にはそんなつまらない返事しかできなかった。

 どうしたらいいかなんて分からない。

「どうしたらいい?」

「凛と話すしかないだろ」

「それができりゃあ苦労しねえよ」

 駐車場に入ってきた車が僕たちのそばを通過した。

 運転席のおばさんが少し速度を落としてこちらを見ていた。

 怪しい不良高校生が喧嘩をしていると思われたのかもしれない。

 僕らは歩き出した。

 国道に出たところで高志が右手をあげた。

「じゃあな」

 ガストで昼ご飯にありつこうと思っていたのに、それどころじゃなかった。

「うん、また明日」

 何の解決方法も示せなかった。

 僕が解決できることじゃないから仕方がない。

 凛と高志の問題だ。

 べつに冷たいわけじゃない。

 あまりにも突然すぎてどうしていいのか本当に分からないんだ。
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