冬至りなば君遠からじ
 たくさん話ができて楽しかったけど、おなかもすいたので僕らは公園で先輩と別れた。

「じゃあ、さよなら」

「その『さよなら』とは何だ」

「人と別れる時の挨拶です」

「それは何のために言うのだ?」

 凛が少し考えてから答えた。

「今日会えたことを喜んで、そして、また会いたいからですよ」

「そうか。でもまだ人間の気持ちはよく分からないな」

 先輩は僕らに手を振ってくれていた。

 石段を下りて見えなくなるまで手を振ってくれた。

 二段ほど下りて、ふと、思い直してもう一度石段を上がってみた。

 広場には先輩の姿はなかった。

 凛が先に道路まで下りて待っていた。

「何やってんのよ」

「先輩いなくなってた」

「ふうん、私たちがいなくなっちゃったからじゃないの。見える人がいるから見えるって言ってたじゃん。ということは、見える人がいなくなったら見えなくなる」

 凛の方が冷静に、幽霊としての先輩の存在を受け止めているようだった。

 笹山公園から駅前ロータリーまで戻ってくると、凛が買い物をしたいというので駅舎に隣接した農協スーパーに立ち寄った。

 パン屋でメロンパンとカレーパンをトレイにのせて、一つだけ残っていたサンドイッチを買うかどうか迷っている。

 もう昼というよりはおやつの時間だった。

 結局、それも追加した。

「あんたも買えば」

「僕は家に昼ご飯があるからいいよ」

「そうなの。うちで一緒に食べるのかと思ったのに」

 二人で?

 高志とあんなことがあったのに?

「明日数学ヤバイからちゃんと勉強するよ」

 僕はそう言ってごまかした。

 凛は「そう」と静かにうなずいて会計を済ませた。
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