冬至りなば君遠からじ

凛のほのめかし

　その夜、僕はずっと凛のことを考えていた。

　小学校から今までいろいろなことがあった。

　マフラーの星の話は本当なのだろうか。

　何で急にマフラーの話なんかしたんだろう。

　ただの冗談なのかどうかも分からない。

　気になって仕方がないのは僕が凛のことを異性として好きだからなのか。

　今まで意識したことのなかった気持ちが急にくっきりとした形をもって現れたのだ。

　試験勉強なんか全く手につかなかった。

　明日の数学は今までの成績がけっこうギリギリだから頑張らなくちゃいけないのに全然頭に入ってこない。

　先輩のことも思い浮かべてしまう。

　二人のことが両方頭の中をぐるぐるといつまでも回って離れていかない。

　先輩の笑顔、凛のマフラー。

　僕にはどちらも大切なものだった。

　それに比べたら数学なんてちっぽけなものだ。

　昨日まではなかったものが一度に僕にのしかかってきた。

　あんな素敵な笑顔を見せてくれる人がこの世にいるんだと知ってしまったら、それを失うことを想像するだけで怖くなる。

　今は親しく話ができている。

　でも、いつ嫌われるか分からない。

　僕はスマホを取り出して先輩の写真を見た。

　若松神社のブランコで撮ったものだ。

　無表情なのに、今はやっぱり僕に微笑んでくれているように見えてしまう。

　僕は先輩の笑顔が好きだ。

　気持ちがはっきりと形になっているのは凛に対しても、先輩に対しても、どちらも同じだった。

　比べたり、片方に決めたりすることはできなかった。

　眠れないまま無駄に時間が過ぎていく。

　僕は消しゴムに漢字で『真冬』と書いた。

　先輩の名前はひらがなだけど、見られたら恥ずかしいから漢字で書いた。

『真冬』なら、最悪凛に見られても、『ウィンターだろ』と言い張ればなんとかなる。

　……なるわけないか。でもいいさ。

　少なくとも凛の名前を書いて凛に見られたら終わりだと思う。

『マジでキモイからやめて』

　うん、終わる。

　先輩の名前だったら、先輩のいるところで消しゴムを出す状況はないだろうから、見られて恥ずかしいことにはならないだろう。

　シャーペンの先で少しほじくるようにしながら一画ずつ刻んでいった。

　刻むたびに先輩の名前を意識していると、会いたくてしかたがなくなってきた。

　だんだん熱中してきたけど、冬の最後の点を二つ刻む頃には、お墓に名前を刻むような気持ちになってなんだか急に悲しくなった。

　何をやっているんだ、僕は。

　もっと他に大事なことがあるだろう。

　……ないか。

　明日の数学試験なんてどうでもいいんだ。