冬至りなば君遠からじ
 パスタが運ばれてきた。

 凛の前に、なすとほうれん草のパスタ、僕と先輩にはパルメザンチーズが雪山のようにたっぷり振りかけられたボロネーゼ。

 先輩がフォークを入れると、凛がスマホを取り出した。

「せっかくだから写真撮っておきましょうよ」

 先輩が食べるのを止めて首を傾げる。

「なぜ写真を撮るのだ?」

「後で見て思い出して、楽しかったなって笑えるように」

「じゃあ、笑っている顔の方がいいだろうな」

 先輩が凛に笑顔を向ける。

 だんだん感情の伝え方が人間らしくなってきている。

 他のお客さん達はふつうの高校生グループだとしか思わないだろうな。

 気持ちや感情という概念がない幽霊先輩の方が素直に気持ちを伝えられるのがうらやましい。

 分かっている人間の方が、伝えることをためらったり、恥ずかしがったりしてしまう。

 塊のようなそのままの感情を渡されることになれていないから、受け取る方も素直になるのは難しいものなのかもしれない。

 高志のことを悪くは言えないな。

 僕も似たようなものだ。

 気を取り直してパスタを味わうことにした。

 さっきまで白かったパルメザンチーズがトマト色に染まっていた。

 フォークを入れると糸がからまるようにチーズが溶けていく。

「いっただっきまーす」

 凛はパスタを口に入れて手で隠す。

「あ、おいしい。そっちは?」

「おいしいぞ」

 先輩がまた微笑みを浮かべる。

 チーズと牛肉の脂がパスタに絡んで口に入れるといろいろな味わいが一気に広がる。

 僕らは黙々とパスタを口に運んでいた。

 気がつくと誰もしゃべらなくなっていた。

 あっという間になくなってしまった。

「朋樹、食べるの早すぎだよ」

「だっておいしいからさ」

「でしょ。だから、来て良かったじゃん」

「うん、そうだね」

 先輩の唇がトマトソースで輝いている。

 凛が紙ナプキンで口を拭くと、先輩も真似をした。

「ほら、キスマーク」

 凛が僕に紙ナプキンを向けると、先輩も真似をした。

「二人とも行儀が悪いよ」

 凛が片目をつむる。先輩もそれを真似する。

「良かったじゃん、朋樹。美人二人にウィンクされるなんて、この先の人生で二度とないでしょ」

 まあ、その通りだ。

 反論しないで黙っていた。

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