冬至りなば君遠からじ
 凛が灰色がかった白い皿を両手で持ち上げて目の高さで眺めている。

「さっきから、この白っぽいお皿で出されてるけど、おしゃれな器だよね」

 言われてみれば手作りの物のようで、一枚一枚微妙に風合いが違っている。

 色合いは似ているけど、表情は全然違う。

 表面が白い粉をふいたような色で、メレンゲの焼き菓子のような柔らかな風合いを醸し出している。

 陶芸のことはよく分からないけど、食べ物がおいしく感じられるお皿だ。

 お皿を下げに来たウェイターさんに凛が尋ねた。

「これはなんていうお皿なんですか」

「こちらは唐津焼きで、粉引という種類のお皿ですね。地元の陶芸家の方の作品です。唐津焼きなんですけども、糸原に工房を持っている方なんですよ」

「へえ、そうなんですか」

 食後のコーヒーが運ばれてきた。

 凛はオレンジジュースだ。

 コーヒーは粉引のカップに入れられていた。

「この器は手になじむな」

 先輩が両手で包むようにしてカップを持っている。

 僕も同じようにしてみた。

 取っ手のない湯呑みの形で、丸い底が手になじむ。

 チューリップの花のように縁がやや内側に曲がっているので、茶色い泡の立つコーヒーの良い香りを包み込んでいて、口に運ぶたびに香りが立ちのぼってはっとさせられる。

「これがぬくもりというやつだな」

 先輩が湯気を見つめている。

「先輩はいろんな感覚とか感情を知りましたね」

 凛はそう言うと、ジュースを一口飲んで先輩に尋ねた。

「先輩は朋樹のことをどう思いますか」

 いきなり何を聞いているんだよ。

「どう思うとはどういう意味だ?」

「好きとか嫌いとか、楽しいとかつまらないとか」

 先輩は僕を見てはっきりと言った。

「私は朋樹が好きだな」

 良かったじゃん、と凛が僕に微笑む。

 良くないだろ、何を聞いているんだよ。

 どうしろっていうのさ。

「好きという気持ちがよく分からないが、朋樹といると食べ物の味が分かる。あたたかさを感じる。これは好きということでいいのか?」

 凛が笑顔でうなずいた。

 それはとてもうれしそうな笑顔だった。

 僕の知らない凛がここにもいた。
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