冬至りなば君遠からじ
 僕らは道路沿いにある墓地に来ていた。

 畑の一区画が木に囲まれていて苔に覆われた古い墓石が並んでいる。

 凛が中に入っていく。

 さっきホラーみたいで怖いなんて言ってたのに、わざわざこんなところに来なくてもいいだろうに。

 墓地の奥にはため池が広がっている。

 糸原市にはやたらとため池があって、この場所にもよく高志と釣りに来ていたものだ。

 凛がため池の縁で立ち止まった。

 こんな冬の寒い時期には釣りをしている人など一人もいない。

 墓地の隅に、新しい墓石があった。

 他とは違うので、妙に目立つ。

 きれいな花も供えられている。

 最近お参りに来た人がいるのだろう。

 お墓の名前に見覚えがあった。

「村島家の墓」と書かれている。

 脇の墓碑銘を見たら、一人だけ名前が刻まれていた。

「村島奈津美 享年十八歳」

 まるで怪談話じゃないか。

 村島って、糸原奈津美っていうタレントさんの本名だって聞いたことがある。

「なあ、凛、糸原奈津美ってタレントさん、村島っていう本名じゃなかったっけ」

「さあ、知らない」

 凛は全く関心のなさそうな返事をして、またため池の方を向いてしまった。

 ただの偶然にしては気味が悪くて、僕は場の雰囲気を変えようと思いついたことを言った。

「昔さ、中一の時に喧嘩した時のこと覚えてる?」

「なんかあったっけ?」

「ほら、僕がポニーテール引っ張っちゃってさ」

「ああ、あれはマジで痛かったな」

「ごめんな」

「別にいいよ、今更。あの時だってちゃんと謝ってくれたし。全然大丈夫だよ」

「でもさ、あれで髪短くしちゃったんだろ」

「違うよ」

 凛はボブヘアを揺らしながら首を振った。

「校則でポニーテールが禁止だって言われたから、めんどくさくて切っちゃったんだよ」

「本当?」

「うん、そうだよ。二つ分けかお団子にしろって」

 そんな校則あったかな?

「朋樹はなんで今頃そんな思い出話すんの?」

「ちょっと思い出しただけだよ。別に意味はないよ」

「意味ないって何よ!」

 凛が怒鳴った。

 あまりの声に僕は驚いた。

「意味のないことなら聞かないでよ。いちいち思い出させないで。ほじくりかえさないで」

 凛は拳を握りしめてうつむいた。

 そして、ため込んでいた想いをすべてさらけ出した。

「ずっと好きだった。ずっと朋樹が好きだった。喧嘩したけどずっとずっと好きだった」

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