冬至りなば君遠からじ
 試験が終わると凛は一人で教室を出て行った。

 高志も一人で出て行こうとする。

 僕は腕をつかんだ。

「何すんだよ」と高志が驚いたような表情を見せた。

 僕は高志の腕をつかんだことがない。

 いつも高志の方が体は大きかったし、荒っぽいのは高志の方だった。

 だけどもう、そんな昔のことは関係がない。

 そんな思い出なんて全部壊れてしまったんだから。

「ちょっと話がある」

「俺は何もねえよ」

「いいから来いよ。逃げるな」

「なんだと、朋樹、てめえ……」

 高志は言いかけて黙った。

 僕がつかんでいる腕から、人形の空気が漏れていくように力が抜けていく。

 ぬいぐるみを引っ張っていくように、僕は高志を外に連れ出した。

 踏切を渡って国道の方へ歩いていき、この前みたいにフードアイの駐車場までやってきた。

「缶コーヒー買えよ」

 僕が自販機を指すと高志は財布を出した。

 小銭を入れてボタンを押す。

 あ、冷たいのを買いやがった。

 思わず笑ってしまった。

「何で冷たいんだよ」

「おまえにはこれで充分だろ」

 高志は自分にはホットコーヒーを買った。

 僕らは壁によりかかってコーヒーを飲んだ。

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