冬至りなば君遠からじ
「待てよ、凛」
高志があわてて追いかける。
クロワッサンボックスをラグビーみたいに後ろの僕に放り投げて追いかける。
パン二十個入りのプラスチックボックスはけっこう重くて固くて僕のおなかに食い込む。
もたついている間に、二人は路地に出て見えなくなってしまった。
僕が神社の裏階段を下りたとき、歩行者用踏切の警報が聞こえてきた。
路地を走っていくと踏切に凛がいた。
線路の中に立っている。
高志が遮断機をくぐり抜けて凛を引っ張ろうとしている。
凛は線路を歩いてもっと奥に逃げようとしている。
馬鹿なことをするなよ、凛。
僕は路地に鞄とパンを投げ捨てて踏切に入った。
「凛、馬鹿なことはやめろよ」
僕の声は警報にかき消されて聞こえないのか、凛は枕木に足を取られながらどんどん線路の中に入っていく。
高志が必死に引っ張るけど、凛がふりほどこうと暴れる。
直線の線路の向こうから西唐津方面の電車が向かってくる。
遠くからパアンパアンと警笛を鳴らしている。
凛は線路の真ん中に立ち止まった。
早く戻って来いよ。
僕は祈るしかなかった。
「来ないで」
「やめろ、凛」
「あんたとは話したくない」
高志がしっかりと抱きしめた。
「俺のせいでおまえが苦しむなら、俺が死ぬから」
高志が凛を僕の方へ投げ飛ばす。
僕は凛を受け取って腕を引いて踏切の外に連れ出した。
「タカシ!」
凛が踏切の中に戻ろうとするのを僕は必死に押さえた。
「タカシが死んじゃう」
「高志、凛はもう大丈夫だ。戻って来いよ」
高志はぎゅっと目を閉じたまま電車に背を向けて線路の真ん中に立っている。
「朋樹、一緒に来て、お願い」
凛が僕の手を握りかえして僕を引っ張る。
僕は膝が震えて動けなかった。
「ねえ、朋樹、お願い、高志が死んじゃうよ」
電車の警笛がパアンパアンと鳴り響く。
線路のカタカタという振動がどんどん大きくなっていく。
僕は動けなかった。
「どいて、バカ」
凛は僕を突き飛ばして踏切の中に戻っていった。
尻餅をついたまま僕は見ているしかなかった。
ダメだ、本当に僕は何もできないやつなんだ。
凛が高志の手を引っ張る。
高志は動かない。
立場が逆になっていた。
これじゃあ、二人とも死んでしまう。
「高志、凛まで道連れにするな」
僕は立ち上がって踏切に飛び込んだ。
二人とも死なせるわけにはいかないんだ。
僕が助けなくちゃならないんだ。
「高志、逃げろ。凛、膝を蹴れ」
いつもやっているみたいに凛が膝裏を蹴って高志の体勢を崩した。
そのまま凛が背中を押して、よろけたところを僕が手を引いて高志を線路から連れ出した。
三人で踏切の外に転がり出る。
電車はいつもより速度を緩めた状態で通過していった。
遮断機が上がる。
「逃げよう。見つかったら、怒られるよ」
「うん、笹山公園まで行こうよ」
僕の言葉に凛が反応して高志の背中を叩く。
高志も立ち上がった。
高志があわてて追いかける。
クロワッサンボックスをラグビーみたいに後ろの僕に放り投げて追いかける。
パン二十個入りのプラスチックボックスはけっこう重くて固くて僕のおなかに食い込む。
もたついている間に、二人は路地に出て見えなくなってしまった。
僕が神社の裏階段を下りたとき、歩行者用踏切の警報が聞こえてきた。
路地を走っていくと踏切に凛がいた。
線路の中に立っている。
高志が遮断機をくぐり抜けて凛を引っ張ろうとしている。
凛は線路を歩いてもっと奥に逃げようとしている。
馬鹿なことをするなよ、凛。
僕は路地に鞄とパンを投げ捨てて踏切に入った。
「凛、馬鹿なことはやめろよ」
僕の声は警報にかき消されて聞こえないのか、凛は枕木に足を取られながらどんどん線路の中に入っていく。
高志が必死に引っ張るけど、凛がふりほどこうと暴れる。
直線の線路の向こうから西唐津方面の電車が向かってくる。
遠くからパアンパアンと警笛を鳴らしている。
凛は線路の真ん中に立ち止まった。
早く戻って来いよ。
僕は祈るしかなかった。
「来ないで」
「やめろ、凛」
「あんたとは話したくない」
高志がしっかりと抱きしめた。
「俺のせいでおまえが苦しむなら、俺が死ぬから」
高志が凛を僕の方へ投げ飛ばす。
僕は凛を受け取って腕を引いて踏切の外に連れ出した。
「タカシ!」
凛が踏切の中に戻ろうとするのを僕は必死に押さえた。
「タカシが死んじゃう」
「高志、凛はもう大丈夫だ。戻って来いよ」
高志はぎゅっと目を閉じたまま電車に背を向けて線路の真ん中に立っている。
「朋樹、一緒に来て、お願い」
凛が僕の手を握りかえして僕を引っ張る。
僕は膝が震えて動けなかった。
「ねえ、朋樹、お願い、高志が死んじゃうよ」
電車の警笛がパアンパアンと鳴り響く。
線路のカタカタという振動がどんどん大きくなっていく。
僕は動けなかった。
「どいて、バカ」
凛は僕を突き飛ばして踏切の中に戻っていった。
尻餅をついたまま僕は見ているしかなかった。
ダメだ、本当に僕は何もできないやつなんだ。
凛が高志の手を引っ張る。
高志は動かない。
立場が逆になっていた。
これじゃあ、二人とも死んでしまう。
「高志、凛まで道連れにするな」
僕は立ち上がって踏切に飛び込んだ。
二人とも死なせるわけにはいかないんだ。
僕が助けなくちゃならないんだ。
「高志、逃げろ。凛、膝を蹴れ」
いつもやっているみたいに凛が膝裏を蹴って高志の体勢を崩した。
そのまま凛が背中を押して、よろけたところを僕が手を引いて高志を線路から連れ出した。
三人で踏切の外に転がり出る。
電車はいつもより速度を緩めた状態で通過していった。
遮断機が上がる。
「逃げよう。見つかったら、怒られるよ」
「うん、笹山公園まで行こうよ」
僕の言葉に凛が反応して高志の背中を叩く。
高志も立ち上がった。