冬至りなば君遠からじ
 とりあえずスマホに連絡を入れてみた。

 すぐに既読がついた。

 どこにいるんだろうか。

 スマホが震える。

 写真だ。

 ブランコだ。

 若松神社に僕は急いだ。

 歩行者用踏切まで来たら、警報が鳴って遮断機が下りた。

 昨日、高志と凛と三人で騒ぎを起こしたことが嘘のようだ。

 電車が通過する時、僕は何となく背中を向けた。

 やましいことのある人間のすることだな。

 通過して去っていく電車に僕は頭を下げた。

 昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。

 神社の裏口から境内に入ると、ブランコを揺らして先輩が僕を待っていた。

 最初の頃とは違って、素敵な笑顔で迎えてくれた。

 僕は隣のブランコに座った。

「今日はこっちですか」

「私はここにいる」

 知り合って一週間くらいで、表情がこれほど変わるものなのか。

 気持ちが通じ合うというのはこれほど楽しいことなのか。

 凛と高志の件も解決して、昨日までの重苦しい空気が一変したし、僕の毎日もこれからずっと明るいものになるような気がした。

「先輩、凛と高志が仲直りできたんですよ」

「そうか」

「それで、僕ら四人で遊びに行こうという計画があるんですけど、先輩も行けますよね」

「それは約束というものか」

「そうです」

 先輩は無表情になって黙ってしまった。

 僕はブランコを軽く揺らしながら返事を待った。

 スマホが震えた。

 凛だった。

『先輩に会えた?』

『今若松神社で話してる』

『行けるって?』

 僕は先輩にスマホの画面を見せた。

「どうですか?」

「私はそれでいいが」

 僕はうれしさのあまりブランコから立ち上がりそうになって腰を浮かせたけど、少し落ち着いてまた座った。

「先輩は未来の約束を覚えていられるんですか」

「祈れ」

「祈る?」

「おまえが私にいて欲しいと思うなら私はそのときにそこにいるだろう」

 祈るのか。

 幽霊と約束するのって、結構大変なことなんだな。

「とりあえず、凛に連絡しますね」

 僕はスマホに『OKだって』と返信した。

 すぐにスマホが震えた。

『やったじゃん、おめでとう』

 おめでとうか。

 確かにデートの約束だからな。

 もう一度スマホが震えた。

『こんどの日曜日でいいよね』

 結局、日曜日に糸原駅の改札口で待ち合わせることになった。

 僕は先輩にスマホを示して了解をもらった。

「じゃあ、日曜日、楽しみにしてます」

「そうか」

 若松神社を出て、ブロック塀の飾り穴からのぞいてみたら、もう先輩はいなかった。

 僕に会うためだけに出てきてくれたような気がしてうれしかった。

 でも、そもそも、消えない方がもっとうれしいんだよなと、心の中で自分にツッコミを入れてしまった。

 いつでも一緒にいられたらいいのに。

 急に凛と高志がうらやましくなってしまった。

 今頃二人で何しているんだろうか。

 仲良くしているといいな。

 僕は歩行者用踏切を渡って家に帰った。
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