冬至りなば君遠からじ
 急に決まったデートだけど、お金がなかった。

 この前先輩の分までランチ代を払ったら、本当にすっからかんなのだ。

 ふだん早弁してパンばかり買っていたのがいけなかった。

 計画性のなさがこういうところで重荷になるとはね。

 考えてみたところでどうにもならないので昼ご飯を食べ終わったところで母親に相談した。

「あのさ、こんど学校の知り合いと博多に行くんだ。お金ほしいんだけど」

 茶を飲みながら湯気の向こうで母親が僕をにらむ。

「お小遣いあげてるでしょ」

「早弁して昼にパン買って食べてるからなくなった」

「デート?」

「四人で行く」

「凛ちゃんも?」

「そう」

 母親が財布を出した。

「クリスマスとお年玉の分先渡しでいいならあげるけど」

「分かった」

 僕の目の前に一万円札が置かれた。

「ありがとう」

 母親が財布をしまいながら言った。

「あんたが凛ちゃんとつきあうなんて、大きくなったもんだね」

「ちがうよ。凛と高志だよ」

「じゃあ、あんたは?」

 僕はどう説明したらいいのか分からなかった。

 親に幽霊とつきあうなんて言えない。

「先輩と仲良くなれそうなんだ」

「へえ、年上と、あんたが」

 母親は茶を飲みながらいろいろ聞きたそうな顔をしていた。

「失礼の無いようにしなさいよ。相手が年上だからって甘えちゃって責任の取れないようなことはしないでよ」

 勘弁してよ。母親に言われるのはキツイ。

「でも、あんた、凛ちゃんに感謝しなさいよ」

「何を」

「いつも凛ちゃんと一緒だったから、少しは女の子の扱い方とかも教えてもらったわけでしょ」

「あいつは女子という感じじゃないよ」

「本当は好きだったんでしょ」

「まあ、仲のいい友達だよ」

 母親は素っ気なくうなずいて席を立つと食器を洗い始めた。

 お金だけ手に入ったら、用はない。

 僕はさっさと退散した。

 もう二度と母親に相談しなくても良いように、無駄遣いをやめてちゃんとお金を貯めておこうと思った。
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