冬至りなば君遠からじ

 教室に戻って話すと、高志が笑った。

「なに、おまえ、あんな先輩が気になるのかよ」

 凛が僕のチーズナンを勝手にちぎって口に入れた。

「幽霊なんじゃないの」

「でも、ぶつかったじゃん。幽霊なら、素通りだろ」

「そっか。そうだね」

 自分がぶつかったくせに、凛は興味なさそうにつぶやいた。

 高志がご飯を頬張って行儀悪くしゃべる。

「昼から出る幽霊なんて怖くもないし、そもそもいねえだろ」

「だから幽霊じゃないって」

「ねえ、高志、あの先輩、名前とか知ってる?」

 凛が尋ねると高志は首を振った。

 僕も知らない。

「三年何組なんだろうね」

「つうかさ、あんな先輩いたっけ?」

「謎の転校生とか?」

 凛が自分で言いながら笑う。

 高志も笑う。

「んなことあるかよ。転校って、三年生はもうすぐ卒業だぜ」

「分かっとるワ」

 凛が裏拳ツッコミから高志の弁当に手を伸ばして唐揚げをつまむ。

 べつに文句は言われない。

 高志は自分で弁当を作ってくる。

 さすがにおかずは夕飯の残りとか冷凍物らしいけど、自分で弁当箱に詰めてくるんだそうだ。

 唐揚げときんぴらの間にレタスを挟んであったり、海苔とおかかだけでなく、ごはんの中段にふりかけもまぶしてあったりと手が込んでいる。

 おまけに別の容器にフルーツも必ず用意してくる。

 りんごならもちろんウサギだ。

 毛の生えた太い指からは考えられないほど女子力が高い。

 凛も見習えよと思う。

 とくに言葉遣いがどんどん男っぽくなっていく。
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