冬至りなば君遠からじ
僕は凛と高志が来ないことを言わなければならなかった。
「先輩」
「なんだ」
「四人って言ってたんですけど、他の二人が来られなくなっちゃったんですよ」
「他の二人とは誰のことだ」
誰って、知り合いじゃないですか。
なんだか調子が狂うな。
「いつもの柳ヶ瀬と、その友達の鴻巣っていう男です」
「そうか」
先輩はうなずきながらつぶやくと、改札口に向かって歩き始めた。
僕はあわてて追いかけた。
「その二人がいなくても、私とおまえがいれば電車に乗れるだろう」
二人きりで行くなんて、完全につきあっている者同士のデートなのに、先輩は全然気にしていないようだった。
そういえば先輩は文句を言わない。
感情がないから気にしないんだろうか。
相手が気にしていないと、こちらも変に意識しなくて済むからそれはそれでありがたかった。
二人で改札口前に来ると、さっきの後輩達が僕と先輩の姿を見てみな目をそらす。
そんなに僕が先輩と一緒だと変かな。
でも、目をそらすということは、やつらにも先輩の姿は見えているわけだ。
先輩が幽霊であることを教えてやりたくなった。
でも、あいつらはやっぱり、幽霊であることよりも、僕が美女を連れていることの方に驚くんだろうな。
少しかかとの高いブーツの底でリズミカルに音を立てながら背筋を伸ばして歩く先輩の姿は周囲の人々を圧倒していた。
くやしいけど、ちょっとだけ僕より背が高い。
ふだんは僕の方が少し高いのに。
靴底の厚さのせいだ。
先輩が改札を通ってしまいそうになるので僕はあわてて切符を渡した。
「ここに入れるんですよ」と自動改札機の使い方を教える。
「ほう、そうか」
電車に乗ったことのないセレブの使用人みたいな気分だった。
ホームにはもう福岡空港行きの電車がドアを開けて待っていた。
発車まではまだ五分ある。
車内には数人しかいなくて、僕たちはロングシートの隅に並んで座った。
西唐津から来た糸原終点の電車が隣のホームに入ってきて、人がたくさん降りてくる。
ほとんどの乗客がこちら側の電車に乗り換えて混雑してくる。
いよいよ出発だ。
たかが電車なのに緊張する。
駅を出た電車が速度を上げながらカーブにさしかかったところでクウンクウンと子犬の鳴き声みたいな音を立てた。
僕は思わずにやけてしまった。
先輩が僕の顔を見る。
「どうした?」
「いや、今、電車が子犬みたいな音を立てたからおもしろくて」
「これがおもしろいということなのか」
先輩はしきりに「おもしろい、おもしろい、これはおもしろいのだ」とつぶやいていた。
そんなに言われると全然おもしろくなくなるけどね。
大ピンチだ。
電車は糸原の住宅街を抜けて海沿いを走っていた。
「先輩は海を見たことはありますか」
「遠い昔だな」
「どのくらいですか?」
「言っただろう。時間の感覚はないんだ。昨日かもしれないし、千年前かもしれない」
「先輩」
「なんだ」
「四人って言ってたんですけど、他の二人が来られなくなっちゃったんですよ」
「他の二人とは誰のことだ」
誰って、知り合いじゃないですか。
なんだか調子が狂うな。
「いつもの柳ヶ瀬と、その友達の鴻巣っていう男です」
「そうか」
先輩はうなずきながらつぶやくと、改札口に向かって歩き始めた。
僕はあわてて追いかけた。
「その二人がいなくても、私とおまえがいれば電車に乗れるだろう」
二人きりで行くなんて、完全につきあっている者同士のデートなのに、先輩は全然気にしていないようだった。
そういえば先輩は文句を言わない。
感情がないから気にしないんだろうか。
相手が気にしていないと、こちらも変に意識しなくて済むからそれはそれでありがたかった。
二人で改札口前に来ると、さっきの後輩達が僕と先輩の姿を見てみな目をそらす。
そんなに僕が先輩と一緒だと変かな。
でも、目をそらすということは、やつらにも先輩の姿は見えているわけだ。
先輩が幽霊であることを教えてやりたくなった。
でも、あいつらはやっぱり、幽霊であることよりも、僕が美女を連れていることの方に驚くんだろうな。
少しかかとの高いブーツの底でリズミカルに音を立てながら背筋を伸ばして歩く先輩の姿は周囲の人々を圧倒していた。
くやしいけど、ちょっとだけ僕より背が高い。
ふだんは僕の方が少し高いのに。
靴底の厚さのせいだ。
先輩が改札を通ってしまいそうになるので僕はあわてて切符を渡した。
「ここに入れるんですよ」と自動改札機の使い方を教える。
「ほう、そうか」
電車に乗ったことのないセレブの使用人みたいな気分だった。
ホームにはもう福岡空港行きの電車がドアを開けて待っていた。
発車まではまだ五分ある。
車内には数人しかいなくて、僕たちはロングシートの隅に並んで座った。
西唐津から来た糸原終点の電車が隣のホームに入ってきて、人がたくさん降りてくる。
ほとんどの乗客がこちら側の電車に乗り換えて混雑してくる。
いよいよ出発だ。
たかが電車なのに緊張する。
駅を出た電車が速度を上げながらカーブにさしかかったところでクウンクウンと子犬の鳴き声みたいな音を立てた。
僕は思わずにやけてしまった。
先輩が僕の顔を見る。
「どうした?」
「いや、今、電車が子犬みたいな音を立てたからおもしろくて」
「これがおもしろいということなのか」
先輩はしきりに「おもしろい、おもしろい、これはおもしろいのだ」とつぶやいていた。
そんなに言われると全然おもしろくなくなるけどね。
大ピンチだ。
電車は糸原の住宅街を抜けて海沿いを走っていた。
「先輩は海を見たことはありますか」
「遠い昔だな」
「どのくらいですか?」
「言っただろう。時間の感覚はないんだ。昨日かもしれないし、千年前かもしれない」