冬至りなば君遠からじ
 ふと凛のことを考えた。

 凛を好きだと思っていた気持ちとは明らかに違う。

 先輩を抱きしめたかった。

 どこか人のいないところで二人きりになっていたら、僕は絶対に迷わず過ちを犯すだろうと思った。

 ただそれは決してやましかったりいやらしかったりする気持ちではなくて、心のそこからの正直な感情だった。

 僕はそうしたいんだ。

 ふっと先輩が微笑みを浮かべた。

「おまえの笑顔が見たいからだな。だから笑わせたかったんだな」

「僕も先輩の笑顔が好きですよ」

 僕の耳に先輩が顔を近づける。

 甘い香りがする。

「ああ、私も朋樹の笑顔が好きだ」

 僕は先輩の手を握った。

 他の乗客のことなど気にならなかった。

 僕は先輩が好きだ。

 この世が切り離されて僕と先輩だけの空間ができあがっていた。

 終点は福岡空港だけど、このままどこまでも行けたらいいと思っていた。
< 72 / 114 >

この作品をシェア

pagetop