冬至りなば君遠からじ
 線路沿いに出たところで、凛が立ち止まった。

「あれ、幽霊先輩じゃん」

 少し先の歩行者用踏切のあたりを一人で歩いている女子生徒を指す。

 確かにあの黒髪の後ろ姿は先輩だ。でも、幽霊先輩は失礼だろ。

「電車通学なのかな」

 この道は凛の食パンマンションの前を通り抜けると、駅の南口に出る。

「ねえ、ちょっと後をつけて見ようよ」

 何言ってんの?

 凛の気まぐれには困ったものだ。

「ストーカーじゃん。やだよ」

「ホントは朋樹も興味あるんでしょ」

 僕が首を振ると、僕の腕をつかんで引っ張っていく。

 こういうときの凛には逆らっても無駄だ。

 おとなしくついていくに限る。

 どうせ駅に着いたら先輩は電車に乗るんだろうから、そこから戻ってくるだけだ。

 五分程度の尾行ごっこだ。

 でも、思っていたとおりにはならなかった。

 先輩は駅前まで来ると、タクシーのおじさん達が立ち話をしている横を通り抜けてロータリーの反対側に回ったのだ。

「どこ行くんだろうね」

 この辺りは糸原中学校の学区だから、みんな知り合いだ。

 あの先輩はこの辺に住んでいるはずがない。

 凛は自分から始めた尾行ごっこに少し興奮してきている。

 電柱に隠れたり、角の塀から顔を半分出してのぞいたり、車の陰にしゃがみ込んだり、刑事ドラマというよりはコントみたいなわざとらしい動きをして楽しんでいる。

 一人だったら不審者だけど、僕が隣にいるから安心してふざけられるんだろう。

 クランク状の路地が探偵ごっこの遊び場みたいだった。

 古い住宅地を抜けると街路樹と歩道が整備された広い道路に出た。

 緩くカーブした上り坂に沿って新しく造成された住宅地が雛壇状に並んでいる。

 まだ空き地が多くて建築中の家ばかりだけど、ここに最近引っ越してきたのなら、僕らが知らなくてもおかしくはなかった。
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