冬至りなば君遠からじ
「朋樹」

 誰かが僕を呼ぶ。懐かしい声だった。

 顔を上げると石段から先輩が上がってくるところだった。

「ただいま」

 良かった会えた。

 はにかむような微笑みに向かって僕は答えた。

「おかえり、先輩」

 先輩は僕に手を差し伸べながら歩み寄ってきた。

 コンクリート階段に並んで座ると僕の手を握ってくれた。

 間違いなくぬくもりを感じる。幻じゃない。

 心の中が再びあたたかな気持ちで満ちあふれてくる。

 この気持ちは幻なんかじゃない。

「僕は先輩のことを忘れそうになっていたんですよ。でも、今日思い出しました」

「忘れた方がいいのだ。私は身代わりなのだから」

「でも、もう、凛は幸せですよ。消えなくたっていいじゃないですか」

「その者のことはもう私も覚えてはいない」

「凛のことを?」

「ああ、誰だかわからない。思い出せない方がその者のためでもある。それでいいんだ」

「じゃあ、身代わりって?」

 先輩の言葉は僕が想像もしなかったものだった。

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