冬至りなば君遠からじ
「おまえのだ、朋樹」

 返事ができなかった。

「おまえ自身の身代わりなのだ」

 そんな馬鹿な。

「今、こうして手に触れているだろう。私は触れた者の身代わりになるのだからな」

「でも、僕は不幸じゃありませんよ。災いって、何ですか」

「自分自身がよく分かっているはずだ」

 僕にとっての災い。

 先輩だ。

「先輩と別れてしまうっていうことですか。僕にとって一番さみしい事って、それしかないじゃないですか」

 何も言わずにただ微笑むだけの先輩の肩を揺する。

「矛盾してますよ。僕にとって一番大切な人が消えることが災いで、それをなくすために先輩が消えてしまうなんて」

「そうだな。矛盾というものか。だが、私はおまえに嘘は言わない。それがどんなに辛いことであっても事実だ」

 先輩の目から涙がこぼれた。

 幽霊の目からこぼれ落ちた涙の一滴が頬を伝って流れ、僕の手の甲に一滴落ちた。

 その涙すらあたたかいのに、なぜ消えてしまうというのか。

「私ももっとここにいたい。ずっとおまえのそばにいたい。今私が感じているこの気持ちは何なのだ。これが苦しさというものなのか。私だって消えたくない。これが切なさというものなのか」

 先輩も僕の肩を揺する。

「朋樹、私を忘れないでくれ。忘れられるのは寂しい。感情なんて知らなければ良かったんだ。幽霊は幽霊のままでいるべきだったんだ。私は今日ここに戻ってくるべきではなかったんだ」

「でも、そしたら会えないまま別れなきゃならなかったじゃないですか。僕はそんなの嫌ですよ」

「おまえはいろいろな気持ちを教えてくれた。どれもあたたかいものばかりだ。ほら、私の手があたたかい。このあたたかさ、おまえにも伝わるだろう」

 僕は先輩の手に手を重ねた。

「今のこの気持ちを何というのか教えて欲しい」

 好きだからだよ。

 好きだからあたたかいんだよ。

「僕は先輩とずっと一緒にいたいし、ずっと一緒に笑っていたい。でも、それができないことも分かっているからこそ切なくて苦しくなるんだ。それが好きという気持ちなんだ。今この瞬間を永遠のものにしたいという気持ちが好きということなんだよ」

「それはできないことだな。だから苦しいのか。だから悲しいのか」

「お願いだから消えないでくれ。いつまでも僕と一緒にいて欲しい」

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